日本でも、多くの人々がボブ・ディラン氏の影響を受けている。今回のノーベル文学賞受賞に喜びの声を寄せた。
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《歌手・森山良子さんの話》 音楽家としても思想家としても、大きな影響を与えて時代の意識を変える力を持つ存在。私たちの世代はみな、彼の巻き起こす風に吹かれたのではないでしょうか。
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《ラジオパーソナリティーでシンガー・ソングライターのつボイノリオさん(67)の話》 受賞は本当にうれしい。でも「遅いぞ!」という思いもある。ベトナム戦争でゆれる時代の僕たちの心に、彼の歌はとてもしみこんできたし、感銘を受けた。牧師が長々と諭すような内容を、まるで「言葉の缶詰」のように短い詩にまとめ、常に訴えかけてきた。ギター1本であれほど表現できる。音楽の力、すばらしさも教わった。
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《音楽評論家・小川真一さんの話》 自伝や小説などの著作もあるが、今回は〈偉大なアメリカの歌の伝統の中に、新たな詩的な表現を生み出した〉という彼の曲作りに対する評価であったことに着目している。1962年のデビュー以来、公民権運動であったり反戦であったり、幾多のメッセージを歌に託してきたが、それ以上に秀抜なラブソングであったこと、そして彼の書く言葉が、誰にもまねのできないほど想像力にあふれたものであったこと。この点が評価されたのではないかと思う。
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《「レコード・コレクターズ」元編集長の音楽評論家、寺田正典さんの話》 2014年の福岡公演を聴いた。かつての有名曲を歌っても、出だしは何の曲か分からないくらい、彼の現在のサウンドが表現されていた。詩とサウンドを一体のものとして、現在の肉体的表現として届けたいのだと感じた。彼の歌は、文学とは書物に限るものではなく、そもそも口伝えの物語として始まったことを思い出させる。彼の表現こそが、より古い口承文学の伝統につながっている、という評価も世界ではあるようだ。まさにノーベル文学賞にふさわしく、受賞は画期的だ。
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《「ボブ・ディラン全詩集1962―2001」を翻訳したフォーク歌手・中川五郎さんの話》 このところ毎年のように候補に挙がっているとの話を聞いてきたが、まさか受賞するとは思わなかった。彼がやってきたことは、言葉を楽器の演奏に合わせて人前で歌うことであり、それは、紙の上の文学表現の枠を超えた表現活動だった。文学の枠を超えた表現活動をしてきた彼が詩人としてノーベル文学賞を受けるのは喜ばしいが、彼の全体像を小さくとらえてしまうことになりそうな不安も感じる。
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《音楽評論家・小倉エージさんの話》 社会批判を込めたプロテストソングから始まり、それまで単純なラブソングが多かったロックの歌詞の深さを極め、ビートルズなど多くのミュージシャンや一般大衆を啓発してきた。韻を踏むなどリズムがあり、歌詞として文面で読むだけでも意味深いが、実際に歌われてはじめて深く理解できる点も重要。伝統的なフォークやブルースの歌詞を下敷きに、文学的な要素を高め、大衆音楽として新たな世界を切り開いた。その文学的な価値から、もっと早く賞を取って当然と思っていた。
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《劇作家・宮沢章夫さんの話》 小説「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集」を書きました。10代から聴いていたので受賞は感慨深いです。好きな曲は「ライク・ア・ローリング・ストーン」と「見張り塔からずっと」。ディランは一貫して新しいことに挑戦し続け、ライブでも安住しない。だからディランの曲は懐メロにならないんです。活発に創作しているエネルギーに僕も刺激を受けました。ディランの歌詞は難解ですが、想像力をかき立てられる。劇作家としてそういう部分に影響を受けました。
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《詩人・吉増剛造さんの話》 私が若い頃、米国から届いたハーモニカを口に加えたディランの声は、いまだかつて聞いたことのない声だった。ビートルズとは違う意味で詩を心の底に響かせてくれた。いまという時代に流れる歌声にノーベル賞が与えられたことは画期的で、深い感動を覚えます。
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《作詞家・売野雅勇(うりのまさお)さんの話》 子どもの頃は「プロテストソング」とはわからずに聞いていたが、彼が選び取った音楽のスタイルへの感情は「崇拝」に近い。彼の歌詞には、題材も含めてここまで自由に書けるのかと衝撃を受ける。受賞はびっくりするけれど、ものすごくうれしい。希望の灯がともります。世界がいいところに向かっているという気がして、勇気が出ます。
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《音楽評論家・萩原健太さんの話》 ディランは、ポピュラー音楽の歌詞を大きく変えた。ティーンエージャーの恋や反抗の歌ではなく、隠喩や暗喩、頭韻・脚韻を意識しながら、詩の世界を抽象的な次元にもっていった。小説を含めた先達からの引用、フランス文学やポエトリーなどいろんな脈絡を受け継ぎ、自分の中にのみ込んでいる。
最近のディランは、スタンダードナンバーを歌うことが多い。そういう意味で、自分の言葉でないものさえ自分の物語にする彼が、今回の受賞を受けて、これからどんな新しい物語を紡いでいくのか楽しみだ。