脳に残る恐怖の記憶を無意識のうちに書き換え、その記憶が引き起こす心身の反応を和らげる技術を国際電気通信基礎技術研究所(ATR)などのグループが開発した。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療につながる可能性があるという。英専門誌電子版に22日発表した。
グループは、17人の実験参加者に赤や緑の図形の画像を見せると同時に、手首に微弱電流で刺激を与えた。すると、画像を見るだけで汗が出るなどの反応が起きるようになり、その際の脳の活動パターンを、機能的磁気共鳴画像(fMRI)によって解読した。
次に同じ参加者に、灰色の円の画像を見せ、脳の活動次第で円が大きくなれば、お金が得られると説明した。円は脳の活動パターンが赤い画像への反応に近づくと大きくなる設定。参加者は設定を知らないが、報酬を求めて無意識に脳の活動を変化させ、円を大きくできるようになる。
その後、赤と緑の図形への反応を調べると、赤への反応で汗が出るなどの反応が減っていた。灰色の円を大きくする実験で得られる報酬によって、赤の画像と恐怖が結びついた記憶が消えたためとみられた。
グループの小泉愛さん(現・情報通信研究機構研究員)は、「恐怖の記憶を和らげる効果的な方法として、恐怖の対象を繰り返し見せる手法があるが、それ自体がストレスになる。今回の技術はストレスが少ない治療法につなげられる可能性がある」と話している。(瀬川茂子)