山浦善樹氏。最高裁判事の退官にあわせて1千冊以上の蔵書をスキャンして電子化した上で廃棄したため、事務所や自宅の本棚はガラガラ。「背中に本が並んでいると安心感があるが、大切なのは自分が何を考えるか。最高裁で学びました」=東京・丸の内の宏和法律事務所、市川美亜子撮影
夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」とした昨年12月の最高裁大法廷判決で、反対意見を述べた山浦善樹・最高裁判事(70)が今夏、定年退官した。国の損害賠償責任にまで踏み込んだのは、15人の裁判官の中で1人だけだった。判断の裏にどんな思いがあったのか。法服を脱ぎ、弁護士の仕事を再開した山浦氏に思いを聞いた。
判決があった昨年12月16日。裁判長が判決を読み上げた瞬間、失望の表情を浮かべる原告や弁護団に法壇の上から声をかけたい衝動にかられた。「ここまでよく頑張ってきましたね。国を相手に闘って、家庭でも職場でもつらい思いをしたでしょう。あなたは多くの人を勇気づけましたよ」
多数意見は、家族が同じ姓を使う利点を強調し、「形式的な不平等はない」と判断した。15人のうち10人が賛成し、すべて男性だった。一方、「違憲」とする意見を述べたのは女性3人を含む5人。中でも山浦氏は、「国が長期にわたって立法措置を怠ったために、精神的苦痛を被った」として国の損害賠償責任も認めた。
昨年春ごろ、大法廷で審理が始まった時には、心は「別姓容認」に決まっていた。「戦後70年たって、ようやく日本でも男女の問題が最高裁で論じられることになった。ここで譲れば、自分の人生は何だったのかが問われることになる」
■憲法24条は「2人の選択」に寛容
審理の間、頭に何度も浮かんだ…