さまざまな文章を文字サイズごとに読み上げる小田研究室の大学院生ら=11月、東京女子大
ものが見えにくくなっている人や高齢者にとっての「見えやすさ」や「読みやすさ」とは何か。情報機器を駆使して、そんな問題に取り組んでいる研究室があります。超高齢化社会に対応した製品開発にも結びついています。
■細長く、文字間にゆとり
2013年春、東京女子大現代教養学部人間科学科の小田浩一教授(56)の研究室を、スーツ姿の男性2人が訪れた。共同印刷(東京都文京区)情報メディア開発部の春本昌宏担当部長(当時)らはこう切り出した。
「銀行の利用明細や契約更新のお知らせなどの通知文書は、多くの情報を載せようとして文字が小さくなりがちで、高齢者が読みにくいという声があります。だれもが読みやすい書体を作るために協力していただけませんか」
小田教授の専門は、感覚、知覚、認知の実験心理学をもとにした視聴覚情報処理。ものが見えにくい人にとっての「見やすさ」「読みやすさ」を科学的に数値化し、条件や要素を見つける、という研究を続けてきた。研究室内にとどまらず、「見やすいコマーシャルの字幕」や「識別しやすい紙幣」など、「民間企業や独立行政法人、病院の眼科や盲学校と、社会に貢献できるような共同研究を試みている」(小田教授)という。
研究室から生まれたものには、米ミネソタ大学と共同で開発した、ものが見えにくい「ロービジョン」の人のための読書評価チャート「MNREAD―J」(はんだや社から販売)や、「ForeFinger M」という触って読むことができる立体的なカタカナ書体などがある。
読みやすさを重視した書体「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」を進化させた、横書きの新しい書体を開発したい。春本さんらの強い思いを聞いて、小田教授は考えた。
日本語の文字は、縦長にしても、それほど見えにくくならないという特徴がある。濁点や半濁点をうまく処理できれば、いいフォントを作ることが可能かもしれない――。
こうして共同研究は始まった。…