ひとりのワーカーの机の脇に並ぶファイル。現在進行形のケースだ
■第5章「児相の素顔」(2)
児童相談所(児相)の一角に、ワーカー(児童福祉司)のケイコ(仮名)と上司2人の計3人が集まった。時計の針は午前9時50分を指していた。ケイコが担当するケースについて対応を話し合う月1回の会議だ。
虐待対応チームのケイコが担当するケースは約70件にのぼる。それらを虐待の危険度に応じて「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」「Ⅳ」の4段階に分けて管理している。この日の会議は、リスクが高く要注意と判断しているⅠとⅡのケースが対象だ。先月は緊急対応が入って開けなかった。
連載「児相の現場から」
ケイコが説明する。「小学生の男の子2人。いまは祖母宅で暮らしています。母親が大量服薬して自殺を図ったため、子どもが一時保護されました。自宅はゴミ屋敷でウジがわいていました」
母親や祖母宅の状況について聞かれ、ケイコが「祖母には同居の男性がいる」などと答えると、上司から質問が飛んだ。その男性は何歳で、どんな仕事をしているのか。子どもや母親との関係は――。ケイコは手持ちの情報を伝えた。
「(子どもの)生活の主体は祖母宅。そこで母親と交流を図るのがいいのでは」と上司。
もう一人の上司は「心配なのは、子どもと別居になって子どもの分の生活保護が止まると、母親が連れ戻そうとするのではないかということ。母親には男のかげもある」と指摘した。
ケイコはこう応じた。「母親が家の中をきれいにしてきちんと養育できるなら、家で暮らした方がいいと思います。母親の意思によって対応が変わります。早いうちに家庭訪問して確認します。判定はⅡのままですね」
このケースの話し合いに約20分かかった。
児童相談所が対応しなければならない虐待対応の件数は右肩上がり。最悪の事態を防ぐためには、危険度に応じて案件を「ランク分け」して対応することが重要だ。しかし、対応件数が膨大過ぎて、それも簡単なことではない。
次は、高校からの通報で母親か…