練習の反省から太ももの太さ比べ、彼女ができた話など、部員全員がひとつの話題に盛り上がる=23日、宮崎県高千穂町三田井
神話の里で知られる宮崎県高千穂町が今、高校野球で盛り上がっている。町内唯一の高校・高千穂に今春の選抜大会への出場の可能性が巡ってきているからだ。県立校として創部70年での甲子園初出場のチャンス。27日の出場校決定に向けて、地元の期待が高まっている。
「地元の期待の星やねっ。いつもの『肉うどん大盛りカツ丼セット』を用意して朗報を待っちょるよ」。学校から徒歩3分の所にあるうどん屋・まらそん亭の店主、木下義明さん(68)は意気盛んだ。
練習後に立ち寄ってくれる部員たちが甲子園まであと一歩の所まで来ている。
昨秋の県大会で準優勝し、初の九州大会出場を果たした。九州大会は初戦で惜しくも敗れたが、九州地区の「21世紀枠」候補校に選ばれ、3枠をかけた最終選考に残っている。
評価されているのは地域に密着している点だ。
24人の部員は、週1回の休みに町のゴミ拾いをする。出会った観光客には高千穂の良い所を紹介する。伝統の「夜神楽」の舞い手を務める部員もいる。
そんなチームを地域も愛している。車で片道3時間近くかかる宮崎市内の球場まで応援団が駆けつける。「野球部のみなさんへ」と宛てた励ましの手紙が届く。昨秋、九州大会出場で寄付を募ると、約1万2千人の町で1千人ほどがすぐに応じてくれた。
24人のうち、地元出身は23人。その距離の近さがこれまでは弱点だった。戸高裕貴監督(31)は「山育ちで馬力はあるが、素直でやさしすぎた」とチームを評する。
そこに変化を与えたのが、主将で捕手の岡崎莉久(りく)君(2年)だ。慕っていた先輩を追って熊本市から来た岡崎君は、遠慮することなく仲間たちに接した。バッテリーを組む左腕エースの馬原希琉(きりゅう)君(2年)も「小さいときから一緒の仲間にもズバッと指摘ができる性格」だったこともあり、チームに厳しさが芽生えた。戸高監督も「地元じゃない岡崎の存在がチームを強くした」と話す。
「ひょっとしたら」と思わせる存在もいる。
いつもグラウンド脇から練習を見守る山口博範校長(57)だ。同校野球部のOB。前任地の西都商では副部長として九州大会初出場を、その前の宮崎商では部長として39年ぶりに夏の甲子園出場を果たした。高千穂に昨年赴任した矢先のこの結果に、部員たちは「神ってる」とあがめている。
戸高監督は「色んなピースがそろってつかんだチャンス。地元の心強い『部員』の皆さんたちと一緒に甲子園に行ければ」。
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高千穂を含めた候補校は全国で9校。27日の選考委員会で21世紀枠は、東日本、西日本それぞれからまず1校ずつ選ばれ、その後、残りから最後の1校が選ばれる。夕方にはすべての出場校が判明する。(小出大貴)