バットマンシリーズに登場する悪役「ジョーカー」のメイクをしたトランプ氏がカードを掲げる。キングはホワイトハウスの「黒幕」とされるバノン氏、クイーンは「代替的事実」という言葉を使ったコンウェイ大統領顧問、ジャックは、帽子とメガネをつけていて分かりにくいが、就任演説を起草したミラー次席補佐官か――Joao Maio Pinto氏、ポルトガル「Expresso」
[PR]
予測不能のトランプ米大統領に振り回された世界は、この現象をどう見るのか。トランプ米大統領の就任100日に合わせ、デンマークを代表する新聞「ポリティケン」が世界のメディアなどが掲載した風刺画を募集し、優れた66作品を公表した。(梅原季哉)
【写真】風刺画66作品はこちら
連載:トランプ王国を行く
■まじめな危機感に根ざした「笑い」
超大国・米国のかじ取り役をめぐって、笑い事ではない事態が生じている。だからこそ、もの笑いの種にするしかない――。
朝日新聞を含む世界の新聞が、トランプ米政権発足100日を機に共有した風刺画、時事漫画の数々。その背景に一貫して感じられるのは、まじめな危機感に根ざした「笑い」だ。
一方、個々の作品が採り上げたテーマそのものは、多岐にわたる。「壁」や、ツイッターでの気まぐれにもみえる発信を取り扱う傾向が目立つが、そもそも何を伝えたいのか一目瞭然とはいえない作品もある。
メキシコとの国境に壁を立てている人物、金髪なのでトランプ大統領だろうけれど、髪形や顔つきはどこかロシアのプーチン大統領に見えてしまう=Xueting Wu氏、中国「Hubei Daily」
風刺の解釈は時に難しい。背景となる文化や社会に対する知識を共有していないと、おかしみが伝わらないことも珍しくない。この企画では参考までに短い解説をつけたが、唯一の解釈とはいえない。ぜひ、自由に想像力を働かせて鑑賞してほしい。
「このどこが笑えるのか、つまらない」とか、「一国の指導者をここまでけなすのは品がない」といった感想も出るかもしれない。だが、あえて意味不明に近い作品も含め、寄せられた作品ほとんどを朝日新聞デジタルにアップした。トランプ大統領登場に対する、世界の時事漫画家や風刺画家たちの反応、その多様な表現をなるべく全体像で伝えたいからだ。
トランプ氏が飛び上がって振り上げるミサイルを、寝転んで裸足で受け止めるのはシリアのアサド大統領。傍らには黄色い化学兵器が=Ahamad Rahmeh氏、シリア「Souriatna」
世界の新聞による風刺画共有というこのプロジェクトを提唱した「ポリティケン」紙は、デンマークの日刊紙だ。同国は2005年、別の日刊紙が掲載したイスラム教の預言者ムハンマドを題材とした風刺画をめぐり、激しい論争の舞台となった。
ムハンマドをめぐる風刺画をめぐっては、2015年1月、週刊紙シャルリー・エブドが襲撃された凄惨(せいさん)なテロ事件も記憶になお新しい。あの時「私はシャルリー」というスローガンを掲げ、パリの街頭に出て風刺への連帯を表明した市民たちからは、「個人的にはあの漫画は全く笑えない。でも、表現の自由は別の話」「漫画が気に入らないから抹殺するという動きには抵抗する」といった声が聞かれた。
大統領選の総投票数ではクリントン氏に劣ったなどの事実を認めようとせず、自分が気に入らない報道には「フェイク(偽)ニュース」のレッテルを張り、攻撃するトランプ氏。このプロジェクトは、彼が体現する新たな言論状況に対する、一つの回答なのだ。
中国を象徴する巨竜に向かって、ツイッターのつぶやきを象徴する小鳥を口から吐き出し続けて攻撃するトランプ大統領=Adolfo Arranz氏、中国(香港)「South China Morning Post」
◇
〈うめはら・としや〉 1964年生まれ。国際基督教大学(ICU)卒業後、88年朝日新聞社入社。長崎支局、外報部などを経て、ブリュッセル、ウィーン、ワシントンで特派員。国際報道部と社会部でデスク勤務ののち、2013年8月~16年6月、ヨーロッパ総局長。同7月から東京本社編成局長補佐。著書に「ポーランドに殉じた禅僧 梅田良忠」(平凡社)「戦火のサラエボ100年史」(朝日選書)。