「国民投票のルール設定を考える円卓会議」の集会で、参加者は法改正や公平な仕組み作りについて議論した=30日、東京・永田町、石川智也撮影
改憲の手続きを定めた国民投票法に不備があるとして、改正を求める声が上がっている。焦点の一つが賛否を呼びかけるテレビCMだ。投票15日前まで無制限に流せるため、不公平を呼び理性的な議論の妨げになるとの指摘がある。
「来年にも改正案の発議があるかもしれない。改憲・護憲の立場を問わず誰にとっても公平なルール作りを急がねばならない」
30日、東京・永田町であった「国民投票のルール設定を考える円卓会議」の集会。10カ国以上で国民投票を取材してきたジャーナリストの今井一さんらが企画し、独自の国民投票法改正案を検討してきた。
国民投票法によれば、投票は改憲案の発議後60~180日以内に実施されるが、投票の14日前からは賛否を呼びかけるCM放送は禁じられる。新聞や雑誌、ネット広告への規制は一切ないが、特にテレビは映像と音声で強い印象を与えるため、国民に「冷却期間」が必要との考えから設けられた規定だ。ただ、それ以前は誰でも自由にCMを流せる。公職選挙法と違って費用の制限もない。
CM広告料はゴールデンタイムなら1本数百万円とされる。集会では、資金力の差で著しい不公平が生じ、扇情的なCMやネガティブキャンペーンもあふれかねないとの懸念が相次いだ。
南部義典・元慶大大学院講師(国民投票法制)は、現行法では投票日前14日間も、賛否を呼びかける内容以外のCMは流せると指摘。「私は改憲に賛成」などと意見表明するだけなら規制対象にならないという。「本質と関係ないイメージ戦略や資金力が結果を左右する。公正な国民投票のためには『ゼロの平等』が必要」とCM全面禁止を主張する。
作家で元博報堂社員の本間龍さんによると、テレビには各広告会社が優先的に確保できる放送枠があるという。「仮に同じ資金があっても、一方は視聴率の低い時間帯しか取れない不公平が起こり得る」。やはり全面禁止が必要と言う。
一方、田島泰彦・上智大教授(憲法)は、表現の自由の観点から法規制による全面禁止には批判的だ。ただ、団体ごとに資金の上限を設けるなど「公平なルールは必要」という。
2015年にあった大阪都構想の住民投票でも、CMが議論になった。賛否両陣営が計数億円の広報費を投じ、イメージ先行型のCMを連日放映。「消耗戦だ」と批判が上がった。
国会図書館の調べでは、国民投票制度のあるフランスや英国、スイスで有料CMは全面禁止。他方でオーストラリアは原則自由だ。
通信販売を手がけるカタログハウスは、今月発行したカタログ誌「通販生活」で「憲法改正国民投票での有料テレビCMは『全面禁止』にすべきです」との特集を組んだ。企画した平野裕二・読み物編集長は「15秒や30秒の映像では理性的な訴えはほとんど不可能。このままでは国民の判断をゆがめた形で投票日を迎えかねないという危機感があった」と語る。