自立支援介護のイメージ
政府は30日の未来投資会議で示した新しい成長戦略「未来投資戦略2017」の素案に、介護サービス利用者の「自立支援」に取り組み、利用者の介護状態を改善させた事業者への報酬を手厚くする方針を盛り込んだ。元気な高齢者を増やし、介護費抑制につなげる狙いだ。ただ、改善の見込みのない人が利用しにくくなると懸念する声もある。
介護サービスの公定価格である介護報酬は、一般的に利用者の介護の必要度に比例する。利用者を寝かせきりにさせている方が報酬を多くもらえ、歩行訓練などの自立支援に取り組んで利用者の状態が改善した場合には報酬が減ることもある。安倍晋三首相は昨年11月の未来投資会議で「パラダイムシフト(考え方の大転換)をおこす」と、こうした状況を改める考えを示していた。
成長戦略の素案では、「どのような支援をすれば自立につながるか明らかにする」ため、科学的に分析するとした。介護サービスで実施したケアを事業者に詳細に記録して提供してもらい、これとリハビリデータなどを合わせたデータベースを構築。分析から効果的な支援サービスを割り出し、2021年度以降にサービスごとの報酬に反映させる方針を明記した。活用するデータは心肺機能やリハビリの効果などが念頭にある。利用者の介護状態が改善したら報酬を上積みする仕組みにする方針だ。
これとは別に、3年に1度となる来年度の介護報酬改定では、自立支援にすでに取り組んでいる事業所への報酬を手厚くするため、新たな評価基準をつくることも盛り込んだ。
厚生労働省はこの新たな評価基準は要介護状態の改善だけを指標とせず、多角的に判断する考えだ。具体的な仕組みづくりは、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の分科会が担う。
すでに自立支援に取り組んでいる事業所は歓迎する。千葉県浦安市のデイサービス「夢のみずうみ村浦安デイサービスセンター」には陶芸や木工スペース、カラオケルーム、プールなど活動拠点が点在。自由に使えることで利用者のやる気を引き出し、要介護度の維持・改善率は高いという。藤原茂代表(68)は「きちんと報酬で評価してほしい」と期待している。
■「利用者の選別につながる」懸念も
一方、政府の新しい方針には懸念もある。
ケアマネジャーの服部万里子さん(70)は「生命には限りがあり、改善が見込めない重度者もいる。報酬での評価は、事業者による利用者の選別につながる」と指摘。成果主義が徹底されれば、自立が難しそうな高齢者が事業者から敬遠される可能性があるとみる。
神奈川県藤沢市で高齢者向けの小規模多機能ホームを経営する理学療法士の菅原健介さん(37)は「リハビリをする理学療法士と利用者の意思を引き出す介護職ら多職種が連携することが大切」と語る。本人が望まない過酷な訓練は、けがにもつながると心配する。(水戸部六美)