データの分析結果を紹介する弁護士チームの左から鹿瀬島正剛氏、岡本正氏=28日午後、熊本市、福岡亜純撮影
■熊本地震×ヤフー検索データ
検索で探る被災者の住まいへの関心 情報格差の解消課題
被災者の困りごと、検索でわかる?「現場の感覚と違う」
震災時の検索データ、生かすには? 熊本で研究者ら知恵
熊本地震に関する検索データを分析し防災や支援にいかす道を探ろうと、熊本大学で28日に開かれた催しでは、熊本大チーム、弁護士チーム、YMCAチーム、JVOADチーム(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)、朝日新聞記者チームの計5チームが地震後の経験をもとに分析したデータから、様々な課題を指摘し、新たなアイデアを披露した。弁護士チームの発表内容を紹介する。
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熊本地震後、被災者支援制度の情報を発信してきた弁護士のチームは、家屋の被害程度に応じて発行される「罹災(りさい)証明書」の区分で、公的支援の内容が変わることに注目。熊本県内からヤフーを使って関連語句を検索したデータを分析した。その結果、地震直後や、制度変更時に検索が増えており、中でも「半壊」が関心の高いキーワードの一つだったとわかった。
分析にあたったのは、熊本県弁護士会の災害対策本部メンバーだった鹿瀬島正剛弁護士と、東日本大震災で法律相談を取りまとめた岡本正弁護士(第一東京弁護士会)。
罹災証明書は、家屋被害の程度によって「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」の4区分に分けられ、区分に応じて、支援金や義援金の支給額など支援内容も変わる。
罹災証明に関連する検索は、地震発生から1カ月後の2016年5月にピークとなり、翌月以降は急落していた。一方で、「熊本地震」と合わせて検索された「第2ワード」では、「半壊」が同年6~7月にかけて上位に浮上していた。
鹿瀬島弁護士は、県弁護士会が昨年の地震後に電話や面談で被災者から受けた相談約8千件(16年8月末時点)の分析も踏まえて、「発生から1カ月は情報が混乱し、『罹災証明って何ですか』という相談が非常に多かった」と振り返る。「半壊」が上位に浮上したのは、熊本県が昨年5月末に、仮設住宅の入居要件を「大規模半壊」以上から「半壊」に変更したことが影響したと推測した。
鹿瀬島弁護士は、「半壊の壁」という言葉を紹介して、大規模半壊以上でないと被災者生活再建支援金がもらえないことも説明。「行政は建物の壊れ方だけではなく人を見てほしい」と訴え、被災者の生活状況によって途切れない支援を続ける「災害ケースマネジメント」の導入を訴えた。
このほか、「住宅ローン」などの関連語句が地震から1年が経過しても一定の割合で検索され続けていることを示して、関心が続いていると分析し、被災者向けのローン減免制度などの支援策をさらに周知徹底させる必要性を語った。
岡本弁護士は、ビッグデータが制度改正のヒントになると説いたうえで、熊本県が「創造的復興」として目指すインフラ整備などに加えて「『人間の復興』も理念に掲げてほしい」と訴え、「住宅修理制度の拡充や孤立死を防ぐための対策など、人々の生活再建に、より一層目を向けるべきだ」と提言した。
蒲島知事は講評で「耳が痛いことですが」と前置きしながら、「生活支援は日々の対応。創造的復興は5年後、10年後に向けた長期的目標になる。どちらが大事だということではなく、両方を常に考えながら対応していきたい」と述べた。
各チームの代表者による討論では、岡本弁護士が、「罹災証明」以外の支援制度に関わる語句が検索結果に多く浮上しなかったとして、「そもそも制度を知らないという問題がある」と指摘。「生活再建の知識の備え」として防災教育に組み込むなど、「専門家だからこそできる情報提供支援があるのでは」と話した。(丹治翔)