日本郵政グループによる野村不動産ホールディングス(HD)の買収に向けた交渉が、白紙になる見込みとなった。買収検討が明らかになってから野村不動産の株価が高騰したこともあり、買収価格などの条件面で折り合えなかったとみられる。
日本郵政は5月、買収に向けて野村側の資産査定を開始した。しかし、日本郵政幹部は取材に対し「野村不動産の株価が高止まりし、買収しても高値づかみになる可能性があった。買収交渉に逆風になっていた」と明らかにした。野村のノウハウで不動産事業を強化する戦略だったが、見直しを迫られることになる。
日本郵政は5月に発表した今年3月期の決算で、2015年に買収した豪州物流大手トールの業績不振により4003億円の減損損失を出し、純損益が民営化後初の赤字に転落した。ただ、長門正貢社長は記者会見で「前向きにやるべき案件があれば、減損の直後だが(買収は)全く関係ない。4千億円の減損を生かして決断したい」と話すなど、強い意欲を見せていた。
日本郵政は、オフィスビルやマンションの開発経験が豊富な野村不動産の買収で、子会社の日本郵便が全国の一等地に持つ郵便局の再開発を加速させることを狙った。郵便事業は人口減や手紙離れで将来の成長が見通しにくく、不動産事業を新たな収益の柱に育てる考えだった。一方、社内には、巨額損失への批判を受けたこともあり、買収に慎重な声も出ていたという。(徳島慎也)