「ピンチの時は力を抜くことも大事」と語る星野伸之さん=大阪市西区の京セラドーム大阪、滝沢美穂子撮影
今年で99回目を迎える夏の甲子園を目指し、高校球児たちの熱戦がいよいよ始まった。旭川市出身でオリックス・バファローズ投手コーチを務める星野伸之さん(51)は、プロ通算176勝を挙げた名投手だ。90キロに満たないスローカーブを磨き、130キロほどの直球を豪速球に見せる巧みな投球術で知られた。無名に近かった高校時代を振り返りながら、夏の大会に挑む後輩たちにアドバイスを送ってもらった。
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北海道は11月になると雪が降っていなくても手がかじかみ、それが3月くらいまで続きます。室内練習場があれば別だけど、1年の間で5カ月も十分に練習ができない。北海道の高校野球にハンディがあるのは確かで、優勝旗が来るのはいつになるんだろうと思っていましたが、それも実現しました。北海道の高校野球も強くなりましたね。
高校時代は「甲子園に出られたらいいなあ」と思っていたけれど、当時の旭川工業のレベルはそう高くはなかったし、現実的ではありませんでした。
1年の秋に、野球をやめようとしたことがあるんです。野球より、友達と遊びたいという気持ちのほうが勝っていた。父親からは「野球をやめるなら学校もやめて働け」と言われ、監督の説得もあってもう一回やり直そうと決めました。先輩たちも優しく迎え入れてくれました。
3年の夏は地区大会の2回戦で終わってしまいました。全道大会に出たのは、春の1回だけ。負けはしたけれど三振を多く取れて、たまたま別の高校を見に来ていたスカウトの目に留まりました。数少ないサウスポーの中継ぎになってくれればいいと思っていたみたいです。
プロになったらもう少し球速が上がるかなと思っていたけど、ほとんど変わりませんでした。コンプレックスは多少あったけど、球が遅いのなら、緩急を使うしかない。打者との駆け引きやコンビネーション、球のキレで勝負することにしました。(腕を小さくたたむ)独自の投球フォームも、背中越しに腕が出て球種を読まれないようにしたら、テイクバックが小さくなっていったんです。相手打者が「見えにくい」と言っていたと聞き、これはいけると確信しました。そういう工夫は、高校球児にも参考になるかもしれません。
誰しもピンチに陥ると、地に足がつかなくなるというか、早くアウトを取りたくて落ち着かなくなります。気持ちの焦りから力が入ってしまって、いつも通りの投球ができなくなる。それはプロの選手も同じです。まず大事なのは、打者1人に集中すること。そして普段から息を吐きながら投げたり、力を抜いたりすることを心がけるといい。「全力で走れ」とか、力を入れる練習はよくするけれど、力を抜く練習ってなかなかしませんもんね。
いよいよ夏の本番を迎える球児たちには、練習でやってきたことをフルに発揮してほしい。そのまま出せれば結果はついてくるはず。気持ちを強く持ち、自分のやってきたことを信じよう。投手なら、バックで守る仲間を信じて投げること。それが大事かな。(聞き手・構成 宋潤敏)
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〈ほしの・のぶゆき〉 1966年生まれ。旭川工高卒業後、84年に阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)にドラフト5位で入団。87年から11年連続2ケタ勝利を挙げる。00年にFAで阪神タイガースに移籍し、2002年秋に引退するまで、プロ19年間で通算176勝、2041奪三振を記録した。10年からオリックス投手コーチを務める。