冬季競技への支援
冬季競技は、練習場所が限られたり長期遠征が多かったりして活動費用がかさむ。選手は様々な形で支援を受けながら、来年の平昌(ピョンチャン)五輪を目指している。
フリースタイルスキー女子ハーフパイプ(HP)の世界選手権覇者・小野塚彩那(石打丸山ク)が、地元の新潟県南魚沼市役所の市長室に約束なしで押しかけたのは2011年、23歳の秋だった。当時の井口一郎市長に「3年後のソチ五輪に出たい。トランポリンとトレーニングマシンを備えた施設を作ってもらえないでしょうか」と頼んだ。
小野塚はソチ五輪で銅メダリストになるが、当時は基礎スキーからHP転向を決意したばかりの無名選手。それでも、競技の概要や現在の練習環境、施設の必要性を説明し、「スキーHPをメジャーにしたい」という思いを熱く伝えた。
小野塚は「今考えると、すごく失礼なことをしましたよね。(ただ、五輪の夢をかなえるためには)自分で動くしかなかった」と振り返る。一方、井口さんは「いきなりだったから本当にびっくりしましたけど、言葉の語尾がはっきりしていて目を真っすぐ見てきた。『この子は本気なんだろうな』と。オーラと言ったら大げさ。でも、この子の夢を壊してはいけないと思わせられました」と話す。
小野塚が要望した施設は今年4月に「南魚沼市トレーニングセンター」として実現した。市は既存の体育館を2500万円かけて改修し、トランポリン2台に加え、小野塚が選んだトレーニング機器もそろえた。市民にも解放され、年間1800人程度で約40万円の利用料収入を見込んでいたはずが、オープン後わずか1カ月で目標を達成したという。
さらに、小野塚の本拠の石打丸山スキー場にワールドカップが開催可能な「モンスターパイプ」と呼ばれる規格のHPを総工費1億3200万円で建設中だ。行政主導のHPは全国初といい、斜度18・5度で、積雪時は長さ160メートル×幅21メートル×高さ6・7メートル。同規格のHPは全国で3カ所目。昨冬、全長90メートルで32日間だけ仮オープンしたところ、全国から542人の利用者が集まった。フルオープンは来冬となる。
小野塚の行動が契機となり、お米で知られる人口5万8千人の市は「HPのまち」に変わりつつある。林茂男・現市長は「小野塚さんに続く子どもたちが、この小さな町から出てくると信じています。アジア一の練習環境をたゆまず進めていく。それがこの地域の将来の電池にもなる」と力強い。小野塚は「これで練習をサボる口実がなくなりましたね」。地元の後押しを受け、平昌で「金」を狙う。