「ちいさな天使のものがたり」の一場面
お空に帰った赤ちゃんは、お母さんに会いたくて来たんだよ。だから自分を責めないで――。長崎県の薬店で生まれた絵本に共感が広がっている。流産で悲しむ人に寄り添うストーリーで、題名は「ちいさな天使のものがたり」。自費出版の1千部は完売。出版社の目にとまり、7月から全国の書店に並ぶ。
天使が神様に「あのお母さんのところに行きたい」とせがむ。神様は「あのお母さんはがんばり屋さんだから、ちからを使いきってしまうかも」と心配し、「お母さんのちからがなくならないだけの時間をあげよう」と送り出す。天使はおなかで幸せな時間を過ごし、約束の時間に空へ帰る。お母さんが「来てくれてありがとう」と空に向かって言うと、天使は笑ってうなずく――。
創作したのは長崎県松浦市の薬店「ファミリードラッグyou」に勤める川上誠治さん(53)。5年ほど前、いつも元気な知人女性が、毎年秋になると落ち込むことに気づいた。訳をきくと、10年以上前の秋におなかの子を亡くしたと打ち明けられた。自分を責めているように感じた。
川上さんは隠れキリシタンの流れをくむクリスチャン。小学1、2年の時に姉と父を亡くし、天国や命を身近に感じてきた。そんな川上さんの胸に、ふと物語が浮かんだ。携帯電話のメールでつづり、女性に送ると喜んでくれた。
店には不妊治療の相談コーナーがあり、流産で悲しむ女性も訪れる。メールを読んだ店長の満行(みつゆき)勝さん(40)は「これはみんなにとって必要な物語だ」。印刷して店頭に置き、2人で文章を練り直した。昨年春、京都在住の画家としくらえみさんの優しいパステル画に出会い、絵本の画を頼むと快く引き受けてくれた。
昨年末に500部を自費出版。増刷した500部も含めほぼ売り切れた。店には流産や死産、中絶を経験した人から「救われた」とメールが届く。不妊治療中に何度も流産したという市内の主婦(45)は店で絵本を手に取り、思わず泣いた。「あのころは自分を責める毎日だった。でもこれを読んだら前向きになれた」
絵本は、東洋館出版社(東京)からの出版が決まった。担当の西田亜希子さん(41)は「生まれてきた意味を考えさせられた。男性にも響く話です」とほれ込む。すでに英語翻訳を終わり、海外で出版する話も進んでいる。
川上さんは「500部でも多いと思ったのに、全国の書店に並ぶなんて。悲しみの中にも幸せにつながるものがあると気づいて、心からの笑顔を取り戻してもらえたら」と話している。
A5判32ページ。税込み1296円。問い合わせは東洋館出版社(03・3823・9206)へ。(渡辺純子)