安田(左)と北川の東海大福岡バッテリー
あの1球で東海大福岡のエース安田大将は「怖さがなくなった」と気が楽になった。早稲田実を破って春8強入りを決めた選抜2回戦。一回、清宮幸太郎への2球目だった。高めの直球が詰まってファウルになった。
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清宮が得意な低めは全部、明らかなボールにすると決めていた。高めで誘いたかったところに、このファウル。低い横手から浮くような高めの球に「この日の清宮は合ってない」と、バッテリーは見て取った。
「すごい打者でも手をつくせば、勝負できる」と今、安田は思える。「あの試合から高めをうまく使えるようになった」。清宮には後半、2長打を許した。だが、六回の中越え三塁打は高めを打ち上げさせたもの。天高く上がった打球はアウトにできたかもしれない。八回の右翼線二塁打も間合いは外せていた。
球速は130キロに届かない。制球力が生命線だ。テンポもいい。そして実戦で打者に対して分かったことを生かしていく感覚。「サインには首を振る方です。自分の意見を伝えた中で捕手も考えてサインを出してくれる」。捕手の北川穂篤とグラウンドで答えを出していく。2人が大事にする対応力を早実戦では磨けた。
試合終了の礼のあと。清宮は残って東海大福岡の面々を励まし続けた。審判に下がるよう促されるまで。安田は「疲れを取って頑張れ」といわれた。あんな選手に初めて会った。「それだけ甲子園にかけていたのか」。北川は勝利への強い思いを託されたと感じた。
安田にとって、清宮は試合の日まで相手として実感の薄い遠い存在だった。「実際に対戦した経験は大きかった」。やるからには強敵にぶつかり、やってきたことを試す。これがチームの心意気だ。同じ選抜8強の福岡大大濠など強者(つわもの)が居並ぶ福岡。同世代屈指のスラッガーを破った真価を問うときがきた。(隈部康弘)