外野ノックに参加する飯沼優介君(1年)
高知龍馬空港から約300メートル、高知県南国市の物部川沿い。市所有のグラウンドが、高知高専の練習場所だ。大雨が降ると水没する。頻繁に草むしりをしても、外野はすぐに雑草が生えてくる。
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そんな外野でよく通る声を出して練習している選手がいた。飯沼優介君(1年)。きりりとした顔立ちに、太い眉。
中学時代のあだ名は、アーノルド・シュワルツェネッガー扮する映画の主役「ターミネーター」だった。高専に入って丸刈りにすると、投手の竹崎友紀君(2年)が「うわ、ゴルゴ」。
1968年から連載が続く人気の劇画「ゴルゴ13(サーティーン)」は、超人的な狙撃手(スナイパー)が主人公だ。本名は不詳で、ゴルゴ13と呼ばれる。太い眉と角刈りが特徴で、無口だ。
ゴルゴと呼ばれて、飯沼君は「なんだそれと思った」。でも、まんざらでもなく、思い切ってLINEのアイコンもゴルゴに変えた。
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飯沼君が野球を始めたのは中学生から。高知高専に入学した直後は野球をするつもりはなかったが、「友達がほしいとふらふらと入部しました」。
野球部の練習に初めて参加した日。主将の野並陸君(3年)が練習の指示を出していた。いつまでたっても監督が来ない。
練習が終わって、野並君が監督を兼務していたことにやっと気づいた。監督の後任が決まらなかったためだが、飯沼君は「主将が監督をする部活なんだ。さすが高専」と感心した。
野並君たち上級生が驚くほど親切に教えてくれた。グラブのかまえ方、走り方の姿勢、バントの方法、筋トレのポイントなど。
練習メニューも、野並君が考案したものが多い。例えば、雨でグラウンドが使えない日には3チームに分かれ、土手を使ってダッシュの競走をする。最下位のチームは筋トレやストレッチなどのペナルティー。「次はまけんぞ」「かなわんわー」などみんな笑顔で練習している。
「優しいけど、緊張感があって、本気で練習している。自分も本気で取り組まないと」。飯沼君はだんだん真剣になっていった。
真剣になるにつれて、自分のふがいなさに気づいた。特に課題は守備だ。ノックでもミスが多く、外野の端までボールを転がせてしまうことも。
「先輩たちに同じことを何度も何度も言われて、でもできなくて……。一緒にプレーをしている人に言われると、自分も責任をもってがんばらないと、と思うんです」
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主将の野並君は「守備が今はあまりうまくないので、惜しいなあ、と思う。肩が強いから、強打は期待できるんですけど。レギュラーを狙ってほしい」と話す。
野並君自身、1年生で2人いた同期がやめ、同じ学年が1人になった。それでも、先輩たちが親身に指導してくれて、ここまでやってこられたと思う。
「自分もしてもらった。だから、自分も後輩たちが成長できるようにできるだけのことをしたい」
今月5日、練習後に野並君が一人ひとりに背番号を手渡した。野並君は、飯沼君に「お前、欲しそうな顔すんなや。最後に渡そ」。笑いながら手渡した背番号は「ゴルゴ13」の13。
飯沼君は「この野球部に入ってよかった。声をだして、チームを盛り上げて全力でいきます」と話す。
「もし出られるとしたら代打。そのときは胸をはって出ます」(森岡みづほ)