選手に練習用の球を渡す佐々木結衣さん=十和田市沢田
新学期スタートから1週間後の4月17日午後。十和田西高(青森)のあちこちの教室で、1年生が列をつくっていた。部活ごとに割り振られた教室内では上級生が待ち受け、入部届を受け付ける。
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野球部マネジャー3年の佐々木結衣さん(18)と袴田祐希那さん(17)も机を並べ、今か今かと入部希望者を待った。だが、廊下を行き来する人影は入り口を横切るばかり。集合時間が過ぎてもひっそりとしたままの室内に、隣の教室からにぎやかな声が流れ込んできた。「ちょっと外、見てきますね」。佐々木さんはいたたまれず、教室を飛び出した。
選手ゼロ、部員はマネジャー2人だけ。そんな状況が2月から続いていた。「1年生が来れば、また野球ができる」という期待は、むなしく消えた。
1年前、「常笑野球」を掲げるチームには1~3年の10人が集まり、グラウンドには活気があった。だが、夏の大会が終わり、3年生が抜けると、選手は3人だけになった。秋の大会は夏堀翔平監督(27)が他の部活から「助っ人」をかき集め、なんとか出場できた。だが、冬休みに入ると、1人、また1人と練習に来なくなり、2月にはマネジャー2人を残して全員がいなくなった。
「試合ができないなら仕方ない」。佐々木さんと袴田さんは自分たちも辞めるものと思っていた。そんな気持ちを変えたのが、夏堀監督の一言だった。
「お前たちがやめたら、野球をやりたいやつがいても、入れないじゃないか」
野球をやりたい人がいるのなら、マネジャーとして支えたい。女子2人だけでは野球はできないけれど、「部活動」は続けられる。2人はそう思い直し、放課後に机を並べて勉強したり、人数の少ないバレー部の球拾いや練習相手をしたりしながら、野球部の看板を守っていた。
そんな2人の姿に、いったんは部を去った選手たちの心がざわめき始めた。
最後の退部者となった3年の米田敬君(17)は、夏堀監督に復帰を勧められるたびに、「もう一度やる資格はありません」と断っていた。しかし、佐々木さんらの奮闘を耳にし、夏堀監督から「マネのためにも復帰してくれないか」と声をかけられ、いてもたってもいられなくなった。「もう2人に迷惑はかけられない。大会はマネジャーにとっても心に残るから」。春の地区予選が始まる直前の5月初め、ともにやめた2年の上道伊吹君(16)を誘い、約60日ぶりにグラブと練習着を持って登校した。
今夏の大会は野辺地と組んで出場する。大会本番に向け、夕暮れになると、校舎近くのグラウンドで、4人の選手がキャッチボールを始める。米田君、上道君、そして陸上部からの助っ人2人。広々としたグラウンドでは少々寂しい風景だが、ボールを投げる米田君も、球拾いをする佐々木さんも表情は明るい。
また野球をやれる。マネジャーとして支えられる。
それは「きみがいたから」。(板倉大地)