「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が11日、施行された。実行前の犯罪を処罰できる一方で、「内心の自由」を侵す懸念もあり、戦前・戦中の治安維持法と似ているという指摘もある。いつか来た道をたどるおそれはないのか。異なった意見を持つ研究者2人に聞いた。
《無理やりに質問全部終了》《反対の叫び空しく 治安維持法けふ生る》《社会運動が同法案の為抑圧せられる事はない――警視庁は語る》
いずれも治安維持法が成立した1925年の朝日新聞の見出しを、今の漢字で書き改めたものだ。ネットでは「『共謀罪』と同じ」「歴史は繰り返す」といった驚きの声が広がる。
治安維持法についての著書がある中沢俊輔・秋田大准教授(日本政治外交史)は、同法と「共謀罪」法との共通点について①特定の目的を持つ団体が対象②治安維持法はロシア革命、「共謀罪」法は国際組織犯罪防止条約といずれも国際的要因がある③廃案になった過去を踏まえ法案を修正したと指摘する。
治安維持法は当初、「国体の変革」「私有財産制度の否認」を目的とした結社を禁じたが、その後の改正で対象が拡大。その結果、最大で年間約1万4千人が検挙されるなど思想弾圧に利用された。
中沢准教授は「治安維持法が『思想』を摘発したのに対し、改正組織犯罪処罰法はあくまでも『犯罪』が対象。本質的に異なっており、簡単に『歴史は繰り返す』とは言えない」と強調しつつ、拡大適用を防ぐ必要はあるとして「対象となる277の罪の絞り込みなどの議論は今後も続けていくべきだ」と話す。(岩崎生之助)
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治安維持法が日本本土で初めて適用されたのが、軍事教練反対のビラが見つかったことを契機に、思想研究団体に関わる大学生ら38人が起訴された「京都学連事件」だ。
近代刑法史に詳しい内田博文・九州大名誉教授は「共謀罪」法の今後を考えるうえで、この事件に注目する。「貧困問題などへの関心からマルクス主義を研究した学生の活動を、捜査当局は意図的に『思想の実践』とみなし、犯罪に仕立てた。治安維持法の適用は権力側の恣意(しい)的な運用で始まった」と指摘する。
「共謀罪には市民運動も対象になるのではとの指摘があった。権力側が適用を考える場合、『不当弾圧』の批判を避けるために『運動参加者は社会の敵』というイメージづくりを進めるだろう」と述べる。「学連事件では報道が権力に誘導された。官製キャンペーンに乗らないためには事実を丹念に掘り起こす取材がますます重要になる」(黄澈)