三和市場でこれまでに4回、怪談売買所を開いた宇津呂鹿太郎さん=兵庫県尼崎市、萩一晶撮影
寂れてシャッター街となった兵庫県尼崎市の商店街で、客が見聞きした怖い話を1話100円でやり取りする怪談作家がいる。名付けて「怪談売買所」。地域再生の手伝いになればと始めた企画は評判を呼び、集めた怪異譚(たん)は5月に本になった。
宇津呂鹿太郎さん(44)が阪神尼崎駅近くの三和市場を初めて訪れたのは5年前の夏。映画好きで、空き店舗を利用した映画イベントに行った。その後、市場副理事長の森谷寿さん(64)から「何かやりませんか」と誘われ、提案したのが怪談売買所だ。森谷さんは「市場で売り買いは当たり前。怪談と聞いて面白いと思った」と振り返る。
昔は荒物屋だった部屋はかび臭く、クモの巣が張り、ネズミのミイラも転がっていた。その奥で机にロウソクを立て、客を待つ。怪異体験を話したい人にはじっくり語ってもらい、聞きたい人には自ら語って百円玉をやり取りする。
宇津呂さんの本名は松原慎一さん。大学卒業後、役者を目指して東京に出たが挫折、28歳で地元尼崎に戻った。幼いころから水木しげるファンで、怖い話が大好き。パソコン教室で講師として働き始めたが、実話怪談がブームになると心がざわついた。自ら体験したか、体験した人に取材した怪異譚だ。ついに仕事を辞め、バイトで食いつないで怪談専門誌に投稿を始めた。
売買所は13年以降、これまで…