「アンゼリカ」の店舗と林のぶ子さん。看板のイラストは歌手の水森亜土さんが描いた
東京都世田谷区の下北沢駅前の商店街で半世紀にわたって営業してきた名物パン店「アンゼリカ」が、7月末で営業を終了する。閉店を惜しむ客で連日混み合っており、店主の林のぶ子さん(61)は「親子で代々来てくれた方もいた。本当にありがたい」と話している。
店は1967年ごろ、ケーキ店として林悦子さん夫妻が下北沢南口商店街に開店。約10年後に、神戸の有名なドイツパンの店「フロインドリーブ」で修行した息子の大輔さんが戻ってきて、パン・洋菓子店にリニューアルした。大輔さんは同じ店で修行していたのぶ子さんと結婚。主に悦子さん、大輔さん、のぶ子さんの3人で店を営んできた。
店の看板や包装袋には、悦子さんの友人で歌手の水森亜土さんがイラストを描いた。「ドイツの味を下北で受け入れられるように」とアレンジを重ね、甘い生地にほんのりみその香りが漂う「みそパン」や、十数種類のスパイスや牛肉を使った自家製ソースのカレーパンが人気になった。
テレビで何度も紹介される有名店だったが、2012年に大輔さんが53歳で死去。昨年8月には悦子さんも79歳で亡くなった。十数人の従業員を抱える多忙な店の切り盛りも「一人では限界になってきた」という。創業以来の店舗は老朽化が激しく、跡を継ぐ子どもがいなかったこともあり、50年の節目で区切りをつけることにした。
のぶ子さんの誇りは、アンゼリカで修行して独立した店が全国に誕生していることだ。長野県松本市に同名の店が開店したほか、青梅市や福岡、宮崎両県などでも教え子が店を開いた。
のぶ子さんは「体が続く間は続けたかったけど、レシピはどこかで受け継がれているので、この味がなくなることはないでしょう」と笑顔も見せている。(吉野太一郎)