試合後、苦笑いを浮かべながら整列に向かう大阪桐蔭の徳山(先頭右)
(30日、高校野球大阪大会 大阪桐蔭10―8大冠)
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1点、また1点と追い上げられていく。スタンドは最後の反撃に出る大冠を後押しする雰囲気に包まれる。「完全にアウェーでしたね」とは大阪桐蔭の捕手福井。九回が始まる時点で6点あった差は、2点差まで縮まっていた。
「あのときと同じや」
大阪桐蔭のベンチでは西谷監督が、スタンドでは石田コーチや橋本コーチが、同じ試合の記憶を呼び覚ましていた。
5年前、2012年夏の大阪大会決勝。履正社を相手に一時は10―1とリードを広げながら、エース藤浪(現阪神)が八回、激しい反撃にあった。6本の安打に押し出し四球。2番手の沢田(現オリックス)が救援して反撃を食い止めたが、10―8まで追い上げられた。辛くも逃げ切った苦い記憶だ。
「今日は八回の5点で突き放したつもりでしたけど、簡単にはいかないなと。あの時を思い出すような展開でした」と西谷監督。だが、この日は徳山を代えず、ベンチでじっと見守った。「ああいう場面で、一番投げられるのが徳山だから」と信じた。
ただ、準備はあった。この日、右翼手として先発出場した最速148キロの根尾が、一回からベンチ裏のブルペンで肩を作っていたのだ。根尾は「準備はできていた。徳山さんが抑えてくれるとは思いましたが、いつでもいける状態でした」と言う。
捕手の福井は「何のサインを出したか、あまり覚えていない」と言うほど、少しパニックになっていた。だが、徳山が打たれたり死球を与えたりするたびにタイムを取って駆け寄り、「まだ点差はある。打たれてもいい。最悪、追いつかれたって裏の攻撃がある」と励まし続けた。
徳山もエースの役割を全うした。「粘って投げないと勝てない。気持ちで抑える」と最後の打者は三ゴロに仕留めた。10―8。くしくも、5年前と同じスコアで逃げ切った。
選抜王者として迎えた夏。選手たちは「まずは大阪。大阪を勝つのは簡単ではない」と言い続けた。最後の最後、大冠の猛攻もその象徴だった。
閉会式を終え、一息ついた徳山を、石田コーチが手招きした。「全然、ボールが走っていなかったぞ。バテてたのか? 甲子園に向けて、また走り込みやな」。福井には橋本コーチが「もっと直球で攻めてもよかった」と助言を送った。
勝って反省するのが、大阪桐蔭流。5年前の藤浪も閉会式後、「情けないとしか言えない。悔しい経験になった」と終始、表情を曇らせていた。
そうして乗り込んだ甲子園で、春夏連覇を果たしたのだ。(山口史朗)