がれきから見つかった太鼓で鹿子躍を披露する志津川高の生徒=宮城県名取市の文化会館
いつしか会場は手拍子であふれていた。舞台では、角(つの)のついた鹿頭(ししがしら)をかぶった8人が腰太鼓をたたきながら跳び、舞う。その一人、宮城県南三陸町の志津川高3年、菅原遥人さん(17)は終了後、笑顔でこう話した。「こんなの初めて。また応援してもらった」
特集:みやぎ総文2017
6年前、津波で壊滅的な被害を受けた南三陸町戸倉地区に伝わる伝統芸能「行山流水戸辺鹿子躍(ししおどり)」。第41回全国高校総合文化祭「みやぎ総文」の郷土芸能部門で最終日の4日、志津川高の8人が名取市で披露した。
震災当時の支援への感謝を伝える交流企画で、約1300人が入るホールは、郷土芸能を学ぶ全国の高校生でほぼ満席となった。
菅原さんは、身長を超す白い装身具を背中につけ、体全体で鹿の雄々しさを表現する。小学4年から始めた鹿子躍。震災後も商店街のイベントなどで披露してきたが、ここまでの大舞台は初めてだ。
震災は小学5年の時。津波は戸倉地区にあった菅原さんの家も、小学校ものみ込んだ。形ある物はほとんど消えた。「震災で日常が打ち破られた。もう何も戻らないんだと希望も見失った。でも、『がんばれ』というメッセージに励まされました。だから、全国の高校生に見せたかった。僕たち元気です!って」
震災から6年。地区には新しく商店街ができ、スーパーが開店した。高台に小学校の新校舎が完成し、家も建ちつつある。「好きだったものが元に戻っていく。希望がよみがえった感じです」。この日、使った太鼓は、がれきの中から見つかったもの。手拍子と重なり合って、「いい音がでました」と笑った。
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5日間にわたって開かれた「みやぎ総文」(文化庁、公益社団法人全国高等学校文化連盟など主催、朝日新聞社など特別後援)が4日、閉幕した。23部門に約2万人が参加した。技を競い合い、交流を深めた。来年は長野県で開かれる。(江戸川夏樹)