返球する滝川西の左翼手佐野大夢=柴田悠貴撮影
(12日、高校野球 仙台育英15―3滝川西)
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■滝川西・佐野大夢左翼手
仙台育英の打球は鋭い。三回、ライナー性の打球を追う時にバランスを崩して、ぴょんと跳ねるように転んでしまった。関西に来てから新調したグラブで捕れなかったな。
この夏、2度もグラブを替えた。盗まれたから。「犯人」はキツネ。野球部のグラウンドの周りは田んぼなんだけど、夜になると、よく姿を現す。
1度目は6月下旬。練習後のミーティングに行くとき、一塁側のベンチにグラブを置いておいた。僕のは一番端っこにあって、戻ってくると僕のだけが消えていた。すぐにキツネの仕業だと分かったよ。部員全員で田んぼまで探したけど、見つからなかった。翌日、朝練に来てみると外野付近にボテッと置いてあった。キツネが返してくれたんだと思う。ひもや革がズタズタにかまれていた。
2度目は7月中旬、北北海道大会の開幕数日前。夜のミーティングの時、今度はベンチの真ん中にグラブを置いた。盗まれないようにね。そしたらなんと、僕のグラブだけがなくなっていた。キツネはそんなに、僕のにおいが好きなのか?
北北海道大会では極度の打撃不振に陥った。仲間からは「キツネに取り憑(つ)かれているんじゃねえ?」と、からかわれた。でも自分はけっこう真剣に悩んでいたんだ。そしたら、準決勝の当日、小野寺監督がにやりと笑って「神社におはらいに行ってきたぞ」って。みんなどっと沸いた。そして僕はその試合でホームラン。復活した。
でも本当は憑かれたなんて思っていない。ムードメーカーの僕としては、おいしいネタだし、何より、道具を大切にすることを教えてくれた。最初に盗まれたグラブは今も部室に置いてある。いつも最後に部室を出る僕が「今日もチームに貢献できますように」「甲子園で活躍できますように」と心の中でグラブに語りかけていることは、仲間たちも知らないんだ。
思い描いた活躍はできなかったけど、両親がつけてくれた名前のように大きな夢だった甲子園に立てた。地元で市の職員になって、「諦めなければ夢はかなうよ」と子どもたちに伝えていくのが、僕の次の夢だ。(平井隆介)