試合前の円陣で笑顔を見せる松商学園の波多腰守君=林敏行撮影
(16日、高校野球 盛岡大付6―3松商学園)
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■松商学園・波多腰守
試合前、主将を差し置き円陣の中心に立つ。渾身(こんしん)のギャグを一発。これが大事な仕事だ。
この日は「熱盛(あつもり)!」と叫んで「岡大付属」と続けた。ニュース番組の人気コーナーと相手の校名をもじったが、反応はいま一つ。へこたれず繰り返し、勢いで苦笑をもぎ取った。緊張が和らげば、大成功だ。
控えの捕手だ。中学時代はシニアリーグの日本選抜に入ったが、高校ではチャンスをもらっても結果が出ない。リード面が課題で「自分のことばかりで周りを見る余裕がなかった」。性格も塞ぎがちになった。
新チームになって「変わらなきゃ」と思っていたころ。秋の地区大会初戦、ネット裏に巨人の帽子をかぶった初老の男性がいた。思いついて、円陣で「プロのスカウトも見に来ているので頑張りましょう」。クスリと笑い声。それから、毎試合前「何かやってくれ」というムードになった。苦し紛れにひねり出すと「みんながめっちゃ、いじってくるようになった」。変われた気がした。
長野大会2回戦の伊那北戦では晴天を見上げ、「この天気。いいなあ。いいなあ。これ来たなあ。伊那北!」。決勝の相手は昨夏と同じ佐久長聖だった。「昨年と同じ、夏の長聖(調整)。今年はどちらの調整がうまくいったでしょうか?」。ドッと受けた。試合も見事に雪辱した。
何かネタはないか。球場の風景をじっくり見るようになったことで、心のゆとりが出たと思う。ブルペンで投手の気合が空回りしていれば、間を作って返球したり、捕球時にひょうきんな声を出したり。身につけた余裕と「滑り」にへこたれない精神力を武器に、大学でも捕手で勝負する。(有田憲一)