プロ野球DeNA前球団社長の池田純さん=小林一茂撮影
■甲子園観戦記 前プロ野球DeNA球団社長・池田純さん
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初々しいですよね。ここに来るたびに思います。一塁までは必ず全力で走る。第1ボタンを外したり、カラフルな手袋をつけたりする選手はいない。応援も楽しむというより、純粋で本気です。興行のプロ野球とは違います。
DeNAが誕生した2011年の冬から昨秋までの約5年間、球団社長を務めました。地方大会から選手を追い続けてきたスカウトが集結する夏の甲子園には必ず来て、客席に一緒に座った。彼らの慰労が主な目的でした。
私が就任してから、ドラフトで入団してきた選手には喫煙を禁じました。寮にあった喫煙場所も撤去した。プロ野球選手は子どもたちの憧れであり、手本とならないことはするべきではない。そう考えたからです。一塁への全力疾走を怠る姿勢にも疑問を感じた。「高校の時、そんなことをしなかったでしょう」と。
前橋育英の皆川投手と明徳義塾の西浦君は注目の好選手。今度はプロのユニホームを着て対決するかもしれない。日本の野球文化は高校野球から広がっている。プロが盛り上がるのも高校野球があるからこそ。その象徴の甲子園は、やはり聖地です。
球場づくりは球団経営の屋台骨でした。ナイター開催時の早朝に横浜スタジアムの外野を開放してキャッチボールが出来るようにしたり、地元のすべての子どもたち約72万人に野球帽を配ったり。シートにも工夫を凝らし、音響や映像もその道の一流の方にお願いした。就任前に約110万人だった観客動員が、昨年は過去最多約194万人に増えた。グッズの売り上げも約10倍になりました。
これまで、米国や欧州で百数十カ所のスタジアムを視察しました。球場にはそれぞれ個性がある。大リーグ、レッドソックスの本拠ボストンにあるフェンウェイパークと甲子園の雰囲気が似ていると思います。どちらの球場も過度な演出や奇抜なファンサービスは似合わない。そんな世界観を壊さずに守っていって欲しいと思います。
試合終了。前橋育英のアルプスではそろいのタオルを両手で掲げて喜んでいる。グッズには工夫の余地があると思います。甲子園の土を瓶に入れての販売や、試合開始のサイレンの音を再現出来るおもちゃも面白いと思います。
お金もうけが目的ではなく、そんなグッズがあれば、この球場を巡礼のように訪れた子どもたちが、自分の家にもそれぞれの「甲子園」を持って帰れます。それもまたこの国の野球文化を育んでいくことにつながるのではないでしょうか。(構成・竹田竜世)
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いけだ・じゅん 1976年、横浜市出身。鎌倉高、早大卒。博報堂などに勤務の後、11年から16年までDeNAの初代球団社長を務めた。現在はJリーグ、日本ラグビー協会の特任理事などを務める。