力投する前橋育英の皆川=阪神甲子園球場、細川卓撮影
(16日、高校野球 前橋育英3―1明徳義塾)
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10年ほど前、前橋育英の荒井監督は明徳義塾の練習を見学するため、高知を訪れた。まだ甲子園に出たことがなかった時だ。
2002年に全国制覇を果たした明徳の練習から「実戦的な練習が多くて、1球、ワンプレーに対する厳しさ」を学んだという。走者をつけた守備練習に多くの時間を割く前橋育英の野球の原点とも言える。
明徳の馬淵監督はその時のことをよく覚えていない。「学校の名前も知らんかった。夜に食事をしたのは覚えているよ」
甲子園初対決。試合前の馬淵監督の見立ては、「うちが勝つなら4―3とか3―2。それ以上を跳ね返す力は、今年のうちにはない」。言葉通り、失点は「3」。想定内だ。
が、上回ったのが前橋育英の個々の能力と守備力。エース皆川が最速149キロで押す。一回は先頭を出したが後続には厳しく内角を突いて進塁打を許さない。2死後は捕手戸部が素早い送球で二盗を阻止。ショートバウンドしたが遊撃手の黒沢が落ち着いて処理した。「うちは守り」と監督も選手も自負する通りのプレーで、立ち上がりのピンチの芽をきっちり断った。
明徳も負けていない。こちらも掲げるのは「バッテリーを中心に守って、少ない好機をものにする野球」。昨夏も4強まで進んだ「守りの野球」の最高峰だ。
三回に1点を先制され、なお1死満塁で馬淵監督からの伝令に市川―筒井のバッテリーが即座に応じた。
「変化球を交ぜていけ」。得意の直球主体から一転、スライダーを打たせてピンチを脱した。
打撃全盛の時代に、「守り」を武器にするチーム同士。両校無失策で、失点した後にずるずると崩れることもない。引き締まった試合は、九回にも互いの意地がぶつかり合った。
明徳が3番西浦の適時打で1点を返し、なお2死一塁。ここで前橋育英の皆川が手の指をつった。中堅から急きょ救援した丸山は「1球にすべてをかけようと思った。死ぬ気で投げました」。最後は直球で4番谷合を空振り三振に抑え、試合を締めた。
馬淵監督は今の前橋育英をこう評する。「メキメキと力をつけている。東日本で指折りのチーム」と。勝った荒井監督は「明徳さんのような名門に勝てたのは非常にうれしいです」と言った。
本塁打が史上最多のペースで飛び出る派手な夏。「ホームラン」とはまた違った魅力を再認識させてくれる、全国制覇経験校同士の「守り合い」だった。(山口史朗)