優勝を逃し、岩本主将(左から3人目)につかまり、涙を流す広陵の中村(同4人目)=北村玲奈撮影
(23日、高校野球 花咲徳栄14―4広陵)
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広陵の最後の打者が打ち取られ試合が終わると、主将の岩本淳太君(3年)は真っ先にベンチを出た。打席近くのバットを拾ってベンチに戻し、あいさつの列に最後に加わった。甲子園では試合に出ることのないまま、夏が終わった。
試合後、岩本君は「ベンチ外の控えが練習を支えてくれなければ、ここまで来られなかった」と語った。準優勝盾を受け取った後は歯を食いしばり、最後まで涙は見せなかった。
岩本君は入学直後、140キロを超す直球で、「広陵史上最速の投手」と言われた。だが、1年冬にひじを疲労骨折。手術を重ねたが、完治せずリハビリを続けた。
広陵の部員は142人。大所帯ゆえ、グラウンドを主に使えるのはベンチメンバーだ。しかし、昨夏の新チーム発足後、メンバーが練習中にだらけた態度を見せることがあり、ベンチ外の部員が不満を募らせた。
けがで公式戦に出たことのない岩本君にはその心がよく分かった。メンバーに対し、「広陵の看板を背負っているんだぞ」と自覚を促した。そんな岩本君の姿を見て、多くの部員が主将に推薦。今春、中井哲之監督(55)から新たな主将に指名された。
ベンチ外の3年生は春になると、メンバーが練習に専念できるよう、練習の補助役や応援団に回る。岩本君も裏方に徹し、メンバーには「勝つことよりも大事なことがある。選手である以上、全力でやってほしい」と思いを伝えた。
寮で同部屋の一塁手、大橋昇輝君(3年)は「あいつが主将になってから、メンバーとベンチ外が高め合うチームに変わった」と言う。この夏、投げられない岩本君を3年生部員が推し、背番号18でベンチ入りした。
この日、五回に6点を追加されて、なお2死一塁のピンチ。伝令として飛び出した岩本君は、マウンドに集まった選手に「点差はどうあれ、応援してくれる人のためにも楽しもう」と声をかけた。次打者を三振にとったが、大量点差は最後まで埋めきれなかった。
最多本塁打で注目を集めた捕手の中村奨成(しょうせい)君(3年)は試合後、「最後まで諦めない姿勢で、最高のキャプテンが最高のサポートをしてくれた」と話した。
岩本君は、「スタンドにいる控えを日本一にできず悔しい」と振り返った。
寮の岩本君の部屋には、「控えは宝物」と書かれた紙が貼られている。授与された準優勝メダルは、3年生全員の首にかけて記念写真を撮るつもりだ。(小林圭)