川越東に4―3で勝利した後、険しい顔で整列の先頭に向かう花咲徳栄の野村=4月26日、県営大宮
昨夏の甲子園で決勝を戦った花咲徳栄(埼玉)と広陵(広島)。100回大会世代が最も遅く動き出した2チームは、他校より限られた時間で秋に挑み、選抜出場はつかめなかった。そして、新年度。両校とも、昨夏の戦力だった3年生が悩める春を過ごしている。
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昨夏を制した花咲徳栄は4月26日、春の初戦を迎えた。2回戦で川越東と対戦。3点リードの八回に2点を返され、九回も2死満塁のピンチをなんとか切り抜け、4―3で辛勝した。
貴重な追加点を奪ったのは、前チームから4番を担う野村佑希(3年)だった。2―1の七回に右越え2点二塁打。ただ、値千金の一打なのに浮かない表情。「打席の中で体が硬かった。マークされていることは分かっている。そのなかで打たないと」
この日の2安打は、ボテボテの内野安打と、右翼手が追いつきかけた二塁打。夏に見せた豪快なスイングはなりを潜め、走塁や守備でもミスを犯した。
4番打者には、冬の間に重責が加わった。昨秋は県大会を制したものの、関東大会で初戦敗退。その後、チームの立て直しのために主将に就任した。
さらに、一塁手から三塁手にコンバート。主力に右投手が多い今年の徳栄で、「チームの中心が(投手の視野に入る)三塁にいると存在感が違う」と岩井隆監督。慣れないポジションでの練習に、多くの時間を費やしてきた。
全国から追われるチームにあって、昨夏の主力で残っているのは、野村だけ。「プレッシャーはしょうがないけど、そのなかで自分たちの野球をできるようにしたい」
野村がまとめる徳栄のこの春のテーマは、「勝って経験を積むこと」。岩井監督ははっきりと言う。「甲子園で優勝したからといって、戦い方を知っているわけではない。公式戦を通じて怖さを知ってほしい」。28日の3回戦は所沢商を29―0(5回コールド)で、30日の準々決勝は山村国際を12―0(5回コールド)で下した。
一方、広陵の春は短かった。2戦目となる15日の2回戦で、姿を消した。相手は、その1週間前に練習試合で大勝した県立校の広。延長に持ち込まれ、十回に3―5で力尽きた。
先発は、昨夏の決勝でも登板した右腕の森悠祐(3年)。立ち上がりから直球が浮き、二、四、五回と先頭打者に安打を浴びた。リズムを作れず、五回途中2失点で降板。ベンチから敗戦を見つめた。
秋は「1」だった背番号が、春は「11」に。冬の間に打者から球の出どころが見づらい投球フォームに改造しようと取り組んだが、思うようにいかなかった。調子を落としている間に、石原勇輝(2年)がエースナンバーをつけた。ただ、中井哲之監督は森の力を認めている。「球質は抜群。あとは自信。この春でどれだけつけられるか」
もくろみは崩れた。敗因は「心の隙」と中井監督。「勝った方が強い。負けた方はしっかり練習せえってことよね」。夏の広島大会は、ノーシードで挑むことに。森は監督の「いい薬にするしかない」という言葉を胸に、夏に向かう。(小俣勇貴)