アルプス席で喜ぶ鰺坂亮裕(右)
(23日、高校野球 花咲徳栄14―4広陵)
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■花咲徳栄・鰺坂亮裕
いつか、こんな大観衆の中でジャッジしたい。初優勝を喜びつつ、アルプス席で、そう思った。
学生コーチとしてチームのサポート役を担いながら、年間約80の練習試合で審判を務める。将来の夢はプロ野球の審判だ。
シニアリーグで三塁手としてプレーしていたが、中学1年の秋に腰を痛めて選手は諦めた。ただ、ルールに詳しいことを知っていたチーム関係者の勧めで、リーグの審判講習会を受けた。それから大人に交じって公式戦を裁くように。自宅が近い花咲徳栄の野球部には、最初から学生コーチ兼審判として入った。
入学して2カ月後、初めて紅白戦で球審に立たせてもらった時の衝撃は忘れない。投げていたのはエースだった左腕高橋昂也(現広島)。「怖いくらいの球速。だけど、球筋がきれいで見やすい。こんな球を近くで見られるのか」
さらに熱が入った。授業前に学校で課される10分間の読書時間では、公認野球規則を読み込んだ。ジャッジしやすい審判の立ち位置を毎日、プロ野球中継を見ながら研究した。審判用のユニホームに防具など、必要な装備はお年玉でそろえた。全部で20万円ほどかかったが「自分がやりたいことだから、当たり前」。
そこまでのめり込むのは「違う自分になれるから」と話す。普段はコンビニでジュースを買う時も迷うタイプ。でも「審判をやる時は、きちんと自分の考えを示せる」。
やや高めで聞き取りやすい声、身長165センチ、体重90キロちょっとの体。愛敬があり、選手からも安心感があると好評だ。
うれしかったのは7月の練習試合。埼玉県の高野連に審判をお願いしてもいいのに、自分が球審に指名された。
夏の大会直前で、誰もが必死にプレーしていた。自分もいつも以上に集中し、2時間半、汗でぐっしょり。ベンチ裏で岩井監督に「ありがとう。お疲れさま」と声をかけられた。最高の褒め言葉だった。
選ばれたメンバーが埼玉大会を勝ち抜き、甲子園で栄冠をつかんだ。自分も何か、貢献できたのかもしれない。新チームのために、将来の自分の夢のために。これからも自分の技術も磨きたい。(有田憲一)