吸血鬼ドラキュラとは
夜ごと出没するあやしい影。首筋に牙を立てすする甘い鮮血。忌まわしいモンスターとして恐れられる一方、高貴なイメージがある吸血鬼ドラキュラ。なにゆえ文学や映画の主人公となり、私たちの想像力を刺激するのか。
血の醸し出す恐怖とエロチシズム。出版から120年を迎えた今も吸血鬼小説の最高傑作とされるのが、ブラム・ストーカー著『吸血鬼ドラキュラ』である。民間伝承の専門家でもある大学教授から、ルーマニアのトランシルバニア地方に伝わる吸血鬼信仰の話を聞き調査した。15世紀のワラキア公国を統治し、ドラキュラ公と呼ばれたブラド・ツェペシュをモデルに選んだ。
ブラドはトルコの脅威から祖国を守った英雄。一方、敵だけでなく意に沿わない者は味方までことごとく串刺しにして処刑するなど過激な君主でもあった。その残酷さが、生き血を求めてさまよう吸血鬼のイメージにつながったのだろう。「ブラムが懸案の吸血鬼小説は、ここで一つの大きな確乎(かっこ)たるヒントを得た」。『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫)を翻訳した故平井呈一氏も解説している。
吸血鬼は日中、棺の中で眠っている死体に過ぎないが、夜になると動き出す。神の教えに背いて破門された者や自殺者は死後、吸血鬼(バンパイア)になるという言い伝えが東欧諸国にはあった。
■冷酷さや高貴さ、映画でイメージ定着
ドラキュラの大衆化に拍車を掛けたのが映画である。1922年、ベルリンで公開されたのが「ノスフェラトゥ」。ストーカーの遺族に許可を取っていなかったためタイトルや登場人物が変更された。伯爵の名前はオルロック。目と耳が異様に大きく、爪が長く、頭がはげており老人のようにも見える。
米映画「魔人ドラキュラ」(3…