東京都内のタクシー会社が、給与の一部を実体のない海外企業を通じて支払うことで、国に納める厚生年金保険料を少なくしていたことが厚生労働省への取材で分かった。海外企業を使った保険料の「納付逃れ」が発覚したのは初めて。厚労省は8月末、全国の年金事務所に同様の事例がないか調査するよう通達した。
厚生年金は、株式会社などの法人や従業員5人以上の事業所が加入を義務づけられている。国に納める保険料(来月納付分から給与の18・3%)は、法人・事業所と従業員が折半する。
厚労省によると、タクシー会社の社長が数年前に香港に別企業を設立。数十人の従業員の一部をこの企業に転籍させ、タクシー会社に出向させる形にしていた。給与のうち基本給の約15万円をタクシー会社が、歩合給や深夜手当など上乗せ部分を香港の企業が支払い、基本給部分だけの保険料を納めていたという。
大半の従業員は、香港の企業から支払われる給与分の方が高く、保険料の納付は本来の半額以下に抑えられていたという。納付していなかった保険料は数千万円とみられ、従業員が将来もらえる年金額が本来より少なくなる可能性がある。
厚労省は昨夏にこうした状況を把握。同社も事実関係を認め、今年2月から国がさかのぼって徴収できる過去2年間の未納分を分割納付しているという。厚労省は全国の年金事務所に出した通達で、給与が海外の別事業所からも支払われているケースなどの調査徹底を求めた。(佐藤啓介)