タブレットを使って自分の運転について指導を受ける男性=福岡市城南区田島6丁目
75歳以上の高齢ドライバーの認知機能検査を強化した改正道路交通法が、3月に施行されて半年。福岡県内の高齢ドライバーが年々増える一方で、免許の自主返納も10年前の23倍に急増している。高齢者の運転事情を探った。
9月26日、福岡市城南区の県自動車学校の教室では、高齢の男性たちが食い入るようにタブレット端末を見ていた。
「バックで車を駐車する際は注意です。左右に顔を振って、もう少し周囲を見てからにしましょう」
ドライブレコーダーで撮った運転映像を見ながら指導員が助言すると、同市早良区の男性(74)は「自分の運転なんて見るのは初めてだけど、荒いねえ」とため息をついた。
男性たちが受けていたのは、75歳以上が免許更新時に受ける高齢者講習。計3時間にわたり、講義と視力検査、実際に乗車し、ドライブレコーダーで撮った映像をもとにしたマンツーマン指導を受けた。
男性は「近い店でも、重い物を買うときは母さんに『車出して』と言われる。盆や彼岸の墓参りも足がない」と話した。
高齢ドライバーの事故増加を受け、改正道交法は3月12日に施行された。75歳以上は免許更新と、信号無視や一時不停止など18の交通違反をした際に認知機能検査が義務づけられた。
これまでは免許更新時に「認知症の恐れがある」と判定され、1年以内に違反があった場合のみ医師の診断を受ける必要があった。今回の改正では、検査で認知症の恐れがあるとされた人には医師の診断が義務づけられた。更新時の高齢者講習も見直された。
県警のまとめでは、法施行から今年7月末までに、県内の2万6723人が認知機能検査を受け、692人が認知症の恐れがあると判定された。うち45人は「認知症」と医師の診断を受け、免許が取り消された。
交通企画課によると、県内の65歳以上の免許保有者数は昨年末現在、約67・6万人。県内で起きた事故のうち、65歳以上が自動車を運転していた第1当事者(過失の割合が大きい)になった事故は昨年6967件で、全体の3万7308件のうち18・7%を占めた。07年と比べ事故の件数は約8割に減ったが、65歳以上の事故の数は約1・3倍に増えている。