アンケート「どうする?負動産」の回答結果
親から相続する遺産の取り分をめぐり、きょうだい間などでもめる「争続」は以前からしばしば起きていますが、最近では、相続したくない「負動産」の押し付け合いや、きょうだい間のトラブルを機に遺産が「負動産化」してしまうケースもあるようです。不動産の相続に関する読者の声を紹介しながら、解決策を考えます。
【アンケート】どうする?負動産
■きょうだい不和 塩漬けに 相続空き家、共有したが…
きょうだい間のトラブルがきっかけで、相続した家が「負動産化」してしまったケースを取材しました。
◇
千葉県南部の地方都市。駅から徒歩10分ほどの場所に立つ木造2階建ての一軒家は、壊れた門扉にロープが張られています。住んでいた老夫婦が亡くなり、空き家になって12年ほどになるといいます。
老夫婦には息子が2人、娘が2人いました。父が亡くなり、預貯金は母と子4人で分け、自宅は父の遺言に従い、次男を除く3人で共有することになりました。当初、長男(故人)がその家に住む意向を示し、2人の妹も同意していたといいます。
ところが、父の死から2年後に亡くなった母の法事の席で、きょうだい間で口論になってしまいました。それまで積もり積もったそれぞれの感情などが原因で、その後、連絡を取り合わない状態になりました。
家は築50年ほど。長く空き家になっていたため、大規模なリフォームをするか、建て替えをしなければ、とても住める状態ではありません。しかし、土地・建物の共同所有者になっているきょうだいの同意がなければ、大規模リフォームや建て替え、売却などはできません。相続登記もされないままになっています。
親族の1人が固定資産税を納め、数カ月ごとに草刈りをするなど最低限の維持管理はされています。でも、近所の女性は「手入れはされているが、誰も住んでいない家があるのは不用心で気になる」と言います。
別の親族の男性は「父親は色々と考え抜いた末に、自宅を子ども3人の共有にして残そうと考えたのだろうが、結果としては塩漬け状態になってしまった」と話しています。(北川慧一)
■子どもに信託 みんなで情報共有・家族信託普及協会代表理事 宮田浩志さん
老後の財産管理や円満な相続のため「家族信託」という手法が注目されています。親族トラブルで遺産が塩漬けになるなど「負動産化」を防ぐ対策としても有効なのでしょうか。一般社団法人・家族信託普及協会で代表理事を務める司法書士の宮田浩志さん(43)に聞きました。
◇
家族信託とは、親の財産の管理を、処分まで含めて子に託す仕組みです。親子間だけでなく、親族などでも可能です。2006年に信託法が改正され、利用しやすくなりました。
老後の財産管理では成年後見制度が知られています。後見制度では、たとえば親の自宅を売るには家庭裁判所の許可が必要だし、親の財産の投資や運用はできません。信託ならば、売却や賃貸など、より柔軟な財産管理ができます。
家族信託に節税効果はなく、子に信託したからといって不動産の価値が上がるわけではありません。
ただ、親が元気なうちから子が管理を担うことで、早くから準備できるメリットは大きいと思います。売りづらい不動産でも、時間をかければ買い手がつくことはありえます。私が担当した事例でも、母が長男と信託契約を結び、母が認知症で施設に入った後に、手放したかった地方の土地に買い手がつき、処分できたケースがありました。
親世代にとっては放置するしかない「負動産」でも、子の世代が管理すれば、若者向けシェアハウスにする、民泊に活用するなど新しいアイデアが生まれる可能性もあるでしょう。
信託のもう一つ大きなメリットは「情報の共有」です。面と向かって親に財産のことは聞きづらい。親の死後、地方に「負動産」があると判明しても、残された側は困ってしまい、押しつけあいになるかもしれません。
委託する親と、受託する子が契約を書面で結べば信託は成立しますが、私は関係者全員で家族会議を開くことをお勧めします。そこで親が保有する資産の情報を全員で共有し、親と子それぞれの希望も確認できます。子だけでは「争続」になる財産でも、親の考えを反映させれば丸く収まる可能性もあります。
大量死、大量相続の時代がやってきます。家族信託が広がれば、「負動産」の相続に関するもめごとも減らせるのではないでしょうか。
信託契約を公正証書にする場合はその費用がかかります。司法書士などに依頼すれば相談料なども必要です。普及協会(03・6734・5544)では、お近くの会員をご紹介しています。(聞き手・山田史比古)
■押しつけられて迷惑
シリーズ「負動産時代」や朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声のうち、相続に関するものを紹介します。
◇
●「父から相続した賃貸アパートを、母と自分と弟2人、妹の計5人で共有しています。家賃で母がアパートを維持管理しています。母は末弟にアパートすべてを継がせようと考えているのですが、専業主婦の妹は家賃の管理に不満があるようで、末弟に名義を集約する話し合いが進みません。共有者がねずみ算式に増えて、持ち分が細分化すると将来面倒なことになるのではないかと不安です」(東京都・60代男性)
●「母が所有している賃貸アパートは、将来相続した際には幾ばくかの収入として生活の糧にするつもりです。子孫はいないので、死後は母校の大学に遺贈する考えです」(東京都・60代女性)
●「長期間、相続手続きを放置したために相続人が増えて調整が困難になるケースがあるとのことなので、戸籍と登記を連動させる必要があると思います。相続に関する登記では、被相続人の死亡後に一定の期間を過ぎると自治体が没収できる制度を設けることや、法務局で所有者の生年月日を管理し、生死を確認することで相続の有無を管理したらいいと思います」(大阪府・60代男性)
●「私は死後、住んでいる庭付き一戸建てを長男に譲り、妻には近くの駅前マンションで老後を暮らしてもらうつもりでした。ところが、私の家から職場まで電車だけで45分かかるとして、長男夫婦は職場に近い大阪市内にマンションを購入してしまい、私の構想は崩れてしまいました」(奈良県・70代男性)
●「母が40年前に現地も見ないで購入した土地は、今や買い手がつかない負動産。親の死後も自分たち相続人が税金や草刈りなどの費用をずっと負担していくのは深刻な問題です。当の母は、自分はもう長くないから後のことはよろしくね、と気楽なもので腹立たしい限り。母は、実家を残して欲しいようですが、終わりの無いローンを押しつけられたようなもので、実家を処分して費用を捻出するつもりです」(神奈川県・60代女性)
●「97歳で亡くなった義母の住んでいた家が、中のものがそのまま残され、片付けのまっただ中です。畑は草だらけ、買い手無し、税金あり。夫は71歳で、いつまで車で1時間半の道を通えるか分かりません。また片付けに行く木曜日がうんざりです。長男は損です。不動産はいりません」(岐阜県・60代女性)
●「空き家になっている実家があり、畑で野菜作りを楽しんでいます。建物は解体して更地にしたいのですが、固定資産税が大幅に上がってしまいます。実家の固定資産税は倍になっても耐えられないので、更地にしたくてもできない現在の税制を恨んでいます。このおかしな税制のために、危険な空き家は増えるばかりです」(佐賀県・60代男性)
●「現在、空き家となっている実家を売却に向けて片付けている最中です。自宅から通いながら整理するのは想像以上に大変で、体力のあるうちにしか出来ないと実感しました。廃棄物を処理するにもかなりお金がかかります。ドイツでは、新築しないで空き家が増えるのを防ぎ、資産価値を守っていると本で読みました。日本も見習うべきです」(東京都・50代女性)
●「祖母、母と亡くし、広大な農地と空き家を父と相続しました。父は、私がおり、さらに孫もいるからのんきですが、そのままいけばひとりっ子の息子は農地と空き家に加え、父の家、夫側の家、私たち夫婦の家を1人で相続することになります。まさに負債でしかありません。父の代で何とかしてもらうよう説得中ですが、解決できなければ私が動きます。子どもに負の土地だけは負わせたくありません。各地にちらばった大量のお墓にも頭を悩ませています」(東京都・40代女性)
◇