「改革効果額」の主な内訳
大阪市をなくして東京23区のような特別区に再編する「大阪都構想」を巡り、大阪府と大阪市が進めてきた「改革」が、皮肉にも都構想の「効果」を薄れさせている。府と市は都構想の財政見通しを9日に公表したが、かつてあった「再編効果額」は示さなかった。都構想を看板政策に掲げる大阪維新の会は、ジレンマに陥っている。
大阪府と大阪市の二重行政の解消を狙う大阪都構想は、橋下徹市長時代の2015年5月に大阪市の住民投票で否決された。だが、維新は来年秋に再び都構想を住民投票にかけることをめざし、府と市で新たな具体案づくりを進めている。
9日、都構想を議論する府と市の法定協議会で「財政シミュレーション」が示された。特別区になった場合に、財政にどう影響するかを推計したものだ。
ただ、前回案で「役所の再編による効果額」として強調された「再編効果額」の項目は消えた。代わりに、維新の松井一郎知事と橋下前市長が府と市で始めた行政機関の一部統合や民営化などによる「改革効果額」が示された。
挙げられたのは、地下鉄民営化による株式配当の収入や、府と市の研究所の統合による人員削減など、年間で計447億円(2036年度時点)にのぼる。
前回案では、同じ地下鉄民営化などによる財政へのプラスを「再編効果額」としていた。維新は、都構想が実現すれば17年間で累計2762億円の財源を生み出すことができると主張。だが、都構想に反対する会派は「地下鉄の民営化などは都構想でなくても実現できる」と反論し、都構想は住民投票で否決された。
実際、15年末に吉村洋文市長が就任すると、公明などとの対話が進み、府と市の施設の統合議案などが次々と可決。懸案だった地下鉄の民営化も決まった。
来年秋に2度目の住民投票をめざす維新にとっては、改革が進めば進むほど、特別区の必要性を伝えるのが難しくなるというジレンマがある。維新市議団幹部は「痛しかゆしだ。今後の市民へのアピールは、効果額以外に重点を置かなければ」と打ち明ける。
大阪府知事、大阪市長のダブル選挙を維新が制して6年。松井知事は9日の法定協で「それまでの大阪は、府、市、それぞれバラバラだった。今は人によって(改革が)成り立っている。これを制度化しようというのが(都構想の)大きな意義だ」と説明した。
■6区案なら赤字続く
大阪府と大阪市が9日の法定協で示した財政シミュレーションでは、現在の大阪市を廃止して、四つか六つの特別区にする4種類の「区割り案」ごとに財政見通しを示した。それによると、特別区の区役所を新たに建てるか賃借するため、4区なら最大561億円、6区なら最大768億円の初期費用が必要。賃料やシステム経費などの継続費用もかかる。それらのコストを、地下鉄の民営化による収入などの「改革効果額」で補っていく計算だ。
4区の場合、特別区に再編してから8年後に財政収支が「黒字」に転じる。
これに対して6区だと11~12年後まで「赤字」が続く。その間は、財政調整基金を取り崩すほか、経費削減や公有地の売却などでしのぐ必要があるという。
松井知事は法定協後、「6区案の財政は厳しい。予算編成する立場としては苦労すると思う」と記者団に述べた。ただ、どの区割り案が望ましいかは「(法定協の)各委員がどういう意見を述べるかで、まとめたい」と明言を避けた。(吉川喬)