ベルギー戦後半、選手に指示を出すハリルホジッチ監督
思わず、耳を疑った。
サッカー日本代表のハリルホジッチ監督のコメントに、だ。10日のブラジル戦に1―3で敗れた後、強調した。
「後半は勝っていた」
確かに後半は上向いたが、前向きすぎるのでは――。目をむけるべきは3失点の前半だろう。失点後に周りを鼓舞するのは槙野と川島くらい。時間はあるのに肩を落とすチームは危うかった。メンタル面で「強気」「自信」を求める監督からしても、頭を抱えた光景のはずだ。
この1カ月前は、違った。ワールドカップ(W杯)に出ないハイチに3―3で引き分け、選手をなかば罵倒した。
「君たちには裏切られた」「(代表に)残らない選手の方が多い」
当然、反発を招いた。この合宿中、選手はミーティングや面談で搾られてもいた。「今からでも監督を代えてほしい」との声まであった。
欧州遠征中に監督の考えを直接聞く機会があった。意外にも、自らの率直な言葉が与える影響を気にしていた。
「選手はいい子たちで、私だって嫌われたくはない。毎日接するならもう少し優しく言う」。一方で、「W杯まで時間は限られる。要求は強く言わざるをえない」。
激しい言葉は上っ面だけをとらえがちだ。一息ついて前後の状況を見渡すと、監督の意図は見えてくる。
ハイチ戦のときは、今回の欧州遠征が待っていた。強豪に挑む選手の士気は自然と上がる。耳の痛い指摘をする絶好機だった。反対にブラジル戦のときは、4日後にベルギー戦を控えていた。失った自信の回復が大事だった。
そんな考えを通して、0―1で惜敗したベルギー戦後の言葉を眺めてみる。
「君たちは大きなライオンを倒せるところまでいった」
また前向きだ。長友が「この戦いを続ける。ただ、強豪との差はまだある」と語ったように、得た自信と自省のバランスはほどよかった。次にフルメンバーが集うのは来年3月。日程が空くことを思えば、迷いを生まない意図が監督にはあっただろう。
ハリル監督「大きなライオン倒しかけた」ベルギーに惜敗
言葉はもう一つあった。「国内組で(高レベルの)試合のリズムについていけるのは(山口)蛍だけ」。国内組への上から目線、とあきれるのは早計だ。12月の東アジアE―1選手権、そこでの奮起を促す狙いが垣間見える。
国内組の「追試」の場になるこの大会。相手はW杯対戦国のレベルにはなく、監督の言葉は激しくなりそうだ。反発し、不平を言っても先はない。見返すくらいの気概を示した選手が、生き残る。(藤木健)