朝日新聞デジタルのアンケート
高齢などで自力でごみを出せなくなった「ごみ出し困難世帯」が全国で少なくとも5万世帯ある、という記事を9月に掲載しました。さらなる高齢化で今後も増える見込みですが、支援にはお金や人手が必要です。読者から届いた反響をもとに、各地の解決策を取材しました。
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自治体支援、5万世帯が利用 9月19日付朝刊
9月19日付の朝刊では、74自治体(道府県庁所在市、政令指定市、東京23区)を対象に、朝日新聞が実施した調査の結果を載せました。ごみ出しが困難な高齢者や障害者の自宅まで、自治体職員らが普通ごみの回収に行く支援の有無をたずねたところ、東京23区や横浜市、名古屋市、大阪市など48自治体が支援をし、2016年度では計約5万300世帯が利用していました。この10年間で支援自治体は1.6倍、利用世帯は4倍以上に増えていました。
48自治体の5割強が「要介護1以上」といった介護保険制度の要介護認定などを支援の要件にしていました。また、6割弱の自治体が、利用者宅を訪れた際、声かけなどで安否を確認し、確認が取れない場合は家族などに連絡する「見守り」もしていました。
住民同士が支援 交流も
数十年前に開発され高齢化が進む、神戸市灘区鶴甲(つるかぶと)。マンションの4階に住む女性(73)は、夫に先立たれ、一人暮らしをしています。要介護認定は受けていないものの、不整脈などで朝は体調がとても悪いといいます。女性が「私の命綱」と話すのが、地域住民によるボランティア団体「鶴甲サポートセンター」が15年に始めた、住民によるごみ出し支援です。
センター発行のチケット「ハロー券」を買えば、不調や困難を抱える住民が、元気な住民からごみ出しなどの支援を受けられます。ごみ袋1袋を自宅前から集積所に運んでもらうには、ハロー券1枚(80円)が必要。代金のうち50円は支援する住民に、30円はセンターの運営費に。無料だと支援を受ける側が気をつかってしまい、長続きしないからだそうです。
冒頭の女性宅のごみ出しを担当しているのは、センター事務局長の所(ところ)良靖(よしやす)さん(82)。週に3回程度、午前7時半ごろに女性宅を訪れ、玄関前に置かれたごみを集積所に運びます。約束の日にごみが出ていなければ、インターホンを押して安否確認もします。
神戸市には、高齢者らの自宅前まで市職員がごみ回収にいく支援がありますが、「原則要介護2以上」などの要件があるほか、回収は可燃ごみなどに限られます。「要介護認定は受けていないが、ごみを出せない」「新聞紙や段ボールも回収して欲しい」といった声を受けて、住民同士の支援を始めたそうです。所さんは「顔見知りになれて、災害対応にもつながる」と話します。
自治体のごみ出し支援がない地域でも、住民同士の助け合いが生まれています。仙台市太白区で町内会長をする真木(まき)泰博さん(76)は昨春、「町内会ボランティアグループ」を立ち上げました。メンバーは、平均70歳ほどの住民約10人。近所の体調が悪い高齢者のごみ出しをしたり、冬には灯油をストーブに入れる軽作業をしたり。町内会の役員には仕事などで忙しい人もいるため、幅広く地域の住民からボランティアを募りました。
真木さんは、高齢者の一人暮らし世帯などを一軒一軒まわって「困りごとがないか」をたずね、支援が必要な住民を見つけたといいます。真木さんは「ごみ出し支援は、朝の5~10分程度で済み、そんなに大変ではない。公金を使わず、ご近所と交流でき、手伝う側にも満足感がある」と話します。
金銭負担 別居の子に求める声
朝日新聞の調査では、ごみ出し支援をしている48自治体のほとんどが、利用料を取っていませんでした。高齢化で「ごみ出し困難世帯」が急増していくと、予算がかさんで制度の維持にも影響するのでは、という指摘があります。
大阪府の主婦(54)は、高齢の親と離れて暮らす家族に負担を求めてみてはどうか、とメールで提案してくれました。
「夫の親と同居しているので、同居の不満を抱えながらも、その分のごみ出しを自然としています。家族と離れて住む高齢者だけが、みんなの税金を使って行政の支援を受けられるのは、不公平だと感じます。『離れて住む家族』にも負担(結局はお金になると思いますが)をしてもらえば、支援を維持できるのではないでしょうか」
国立環境研究所の小島英子客員研究員らは昨年2月、高齢の親と離れて暮らし、ごみ出し支援を親に利用させたいと考える40代以上の男女計約千人に、利用料を自分が負担する場合、いくらなら払うかをアンケート。結果は平均月2912円。安否確認がある場合は平均3603円でした。調査対象者のうち、現在、親自身がごみ出しをしている人に、親の様子を聞くと、「転倒の不安がある」「ごみが重くて大変そう」などの声が目立ったそうです。
小島さんは「高齢化で支援が必要な人は今後も増え、自治体財政は厳しい。支援の持続可能性を考えると、高齢者の経済状況に応じて、利用者負担を検討することも必要だ」と話します。
集積所 中学生が一緒に仕分け
「高齢者には、ごみの分別も大変です」。認知症の母親(84)と離れて暮らす京都市の女性(55)が送ってくれたメールを、紹介します。
「結婚して離れて暮らす私と妹が、母が暮らす実家の掃除や片付けに通っています。
母が住む自治体は、4色のごみ袋を使い分け、8種類にごみを分別するルールです。違うごみが混ざっていると、『収集できません』というシールが貼られ、置いていかれます。
先日、実家を訪ねると、ポリ袋や発泡スチロールのトレー、ストロー、瓶、缶が、すべてきれいに洗われて乾かされた状態で、大量に出てきました。母は、それぞれをどう分別して捨てて良いかが、わからなかったのです。
町はごみを正しく分別してもらうために『ごみ分別支援イラスト』というチラシも作っていますが、文字が小さすぎて老眼の私には見えません。認知症の母でなくても、この細かい分別収集は大変ではないかと思います。
誰もが年をとります。資源の有効活用という趣旨はよくわかりますが、できない人もいることを認識して、もっとゆるやかな収集方法を考えて頂きたいと思った次第です」
分別が難しい高齢者をどう支援すればいいか。1993年から20種の分別をする熊本県水俣市を訪ねました。
11月上旬、平日の午後5時。同市の資源ごみの集積所に行くと、アルミ缶、スチール缶、小型家電、電気コード類などに分かれた分別用のコンテナがずらり。横には、自治会役員の他、同市立水俣第二中学の生徒が立っています。
そこに、ごみ袋を持った高齢女性が。中学生がすぐさま駆け寄り、「これはスチール缶」「これはアルミ缶」と分別していきました。
同中学では、生徒全員が資源ごみの日に月1回、自宅近くの集積所で分別をお手伝い。学校の方針で、この日は、部活より分別支援が優先。2年生の鶴田純也さん(14)は「部活がしたい時もあったけれど、近所の人とコミュニケーションをとれてうれしい」と話しました。
同市では、生ごみと可燃ごみも分別が必要。この分別が難しい高齢者らには市が、「分別ご免除シール」を支給します。シールをごみ袋に貼れば、可燃ごみの中に生ごみが混ざっても回収してくれます。
生ごみの分別を始めた当初、「バナナの皮は生ごみ、皮に貼ってあるシールは可燃ごみに分別を」と市報で伝えると、「高齢者には負担が重い」と市民の批判が相次ぎ、分別ご免除シールを作成。市内約1万2千世帯のうち、69世帯が利用します。
20分別でリサイクル率が上がったことなどで、ごみの総量は減りました。この結果、91年当時、「残り10年しか持たない」とされた市唯一の埋め立て地は、今年度時点で残り約40年に「延命」。リサイクルの収益は16年度で計約2千万円。市は各自治会に平均約40万円を還元し、自治会は、祭りの費用に充てたり、防犯灯を設置したりしています。
市環境クリーンセンターの竹下浩久所長は「分別が大変な高齢者もいるが、高齢化と過疎化が深刻な自治体ができることには限りがある。本人、家族、地域、自治体、ホームヘルパーなどが力を合わせる必要がある」と話します。
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今回の取材では、「我が家で暮らし続けたい」と、不調を抱えながらも一人暮らしをする多くの高齢者に出会いました。食料品は宅配などで買えても、日常的なごみ出しの民間サービスは少なく、「自治体や住民の支援がなければ、施設に入るしかない」という人もいました。高齢化で「ごみ出し困難世帯」は今後も増える見込みです。環境を守りつつ、自治体財政や人手の面でも持続可能、その上、一定の公平感もある――。そんな理想的な支援をどう作っていくか。取材を続けます。(長富由希子)
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