倒壊した家屋に取り残された住民を救出する消防隊員。右は弾道ミサイルを模した模型=22日午後2時10分、長崎県雲仙市国見町、長沢幹城撮影
北朝鮮情勢の緊迫化を受けて政府は22日、日本国内に弾道ミサイルが落下した想定で自衛隊や消防が参加する初めての訓練を長崎県雲仙市で行った。だが、国民保護法に基づく避難施設としての地下施設の指定はほとんど進んでおらず、現実的な対策は整っていないのが実態だ。
「たったいま雷が落ちたような轟(ごう)音(おん)が鳴り響き、外を見たら煙が上がっています」。雲仙市での訓練は住民からの110番通報で始まり、自衛隊や消防の車両が次々に駆けつけた。
外国から攻撃を受ける「武力攻撃事態」を政府が認定する中、ミサイルが不発のまま落下したという想定だ。防護マスクをつけた陸上自衛隊員が化学物質がないかを調べ、消防隊員と協力して有害なロケット燃料を水で除染。壊れた家から住民を救出し、ミサイルを処理した。
地元住民約30人も参加し、自衛隊の車両などで避難した。森瀬一彦さん(70)は「聞いたことのないサイレンに怖さを感じた。今後のためにいい経験になった」と話した。
国民保護法に基づく国民保護訓練は2005年から各地で実施してきたが、これまでは爆破テロや化学テロといった「緊急対処事態」を想定してきた。
しかし、今年に入って繰り返される北朝鮮の挑発行動を受け、ミサイル発射を想定した住民避難訓練が行われるようになった。今回は、着弾したミサイルに対する関係機関の対応訓練までレベルを引き上げた。
官邸関係者は「ようやく必要な訓練ができた。これまでは自治体にミサイル発射を前提とした訓練への反発があったが、理解が進んできた」と語る。
しかし、ミサイル着弾対策として有効とされる避難施設の整備は不十分だ。
政府は国民保護法に基づいて都道府県が指定した約9万カ所の避難施設を「国民保護ポータルサイト」で公開しているが、小中学校が多く、地下への避難が可能な施設は0・7%にとどまる。民間商業施設の地下駐車場の指定はわずかで、地下鉄はゼロ。鉄道事業者などと協議はしているが、「逃げ込んでけがをした場合、管理責任を負わされるのではないか」などという懸念が強いという。
自民党の検討チームはシェルターの整備も提言しているが、膨大な予算が必要で、政府は費用対効果も考えて慎重な構えだ。
安倍晋三首相は22日の国会答弁で「堅牢な建築物や地下施設の指定を促進していく」と述べた。(堀田浩一、舞田正人、清宮涼)