路上で目にする機会が増えたSUV(スポーツ用多目的車)。このまどろっこしい補足説明がもはや不要と思えるほど、クルマのベーシックな形の一つとして定着した感がある。高級輸入車の売れ筋もSUVに集中しており、大柄なSUVが「ガイシャ(外車)」の代名詞となりつつある。今年下半期に国内投入された欧州ブランドの3車種に試乗した記者は、その人気の理由を再認識する一方で、来たる自動運転時代に顕在化しかねない、右ハンドル車の意外な弱点に気づかされた。 「安定のクオリティー」 アウディQ5 独アウディの「Q5」は、2008年に本国デビューした中型SUVの2代目。自慢の四輪駆動システム「クアトロ」は、走行状況に応じて不要な駆動をカットして省燃費を実現する新技術を導入した。車体の軽量化と剛性向上に加え、アルミを多用したサスペンションによる直進安定性とハンドリングの軽快感の両立は、まさにドイツ車らしい「安定のクオリティー」。3リッターV6直噴ターボを積む高性能版の「SQ5」の加速は、公道では不要に思えるぐらいに力強い。ただ、アウディ特有の平べったいインパネのデザイン優先のためか、室内の収納スペースが少ないのは改善してほしい。国内向けにはディーゼルエンジン版が用意されないのも残念だ。 オンザレール感覚 レンジローバー・ヴェラール そんなドイツ車のお株を奪う走行性能の高さに目を見張ったのが、英国の老舗SUVブランドであるレンジローバーが7月に投入した「ヴェラール」だ。長らく単一ラインナップだったレンジローバーにとって4車種目となる新規モデルは、凹凸を抑えたツルッとしたデザインが特徴。離陸時のジャンボジェット機の車輪のように、ドアノブまでもがドアパネル内に引っ込む。いざ峠道を走ると、高い車高ながら地面をはうようにグイグイ曲がるオンザレール感覚に感心する。16年に国内投入されたジャガー「F―PACE」と車台を共用しつつも、時間をかけてブラッシュアップされた印象だ。しかし、装備の豪華さに比例して、価格もライバル車に比べて一段と高く、上級モデルは1200万円超となる。 優しくて穏やか ボルボXC60 一方、スウェーデンのボルボ「XC60」は、北欧家具のような品の良さが際立つ。9月に国内投入された全面改良版は、大ヒットした先代に比べて質感を大きく向上させた。特に、4気筒エンジンとは思えない静粛性の高さは絶品。肌触りの良いシートや、流木をイメージしたというアッシュブラウンの木目など、居心地の良い内装のしつらえも完成度が高い。英独のライバルに比べて穏やかな性格ゆえか、エアサスは柔らかくてロールが大きい。ただ、荒れていない舗装路で穏やかな運転を心がければ気にならないレベルだ。走行モードを「ダイナミック」モードに切り替えれば、より力強く走る。燃費性能は犠牲になるが、サスペンションのフワフワ感やトルコンATのモッサリ感が解消され、これが標準の仕様でちょうど良いぐらいに思えた。 開放感と安心感と優越感と 3車種いずれも、視線の高さゆえの開放感と安楽さが印象に残った。嫌みな言い方をすれば、ガッチリした重厚な車体に包まれながら路上を見下ろす、安心感と優越感とも表現できる。そして、運転支援技術の熟成も共通した特徴だ。いずれも前方車の追尾や歩行者検知、車線維持などの先進機能を詰め込み、完全自動運転の実現に向けて技術のアドバンテージを競う。さらに、クルマ自体のIT化も進化する一方だ。ヴェラールは、スマートフォン(スマホ)の専用アプリからエアコンを遠隔操作したり、車両盗難時に位置情報を捜査機関に通報したりできる。XC60は、センターコンソールの物理ボタンを計8個に抑え、9インチの縦長ディスプレーを用意。タブレット端末のように画面タッチでナビゲーションや車体制御などの操作が可能だ。Q5は、指先での手書き文字入力が可能なタッチパネルをシフトノブの奥に据え付け、パソコン感覚で各種デバイスを操作できる。 もっと自由なSUVを そこでふと、「右利きの人にとって将来、右ハンドルのクルマはどんどん運転しにくくなるのでは?」と気になった。 クルマの自動運転化とIT化が進むほど、そのコントロールパネルとしての機能はセンターコンソールに集約されていく。車両の各種制御や映像・音楽などのエンターテインメント、さらにはSNSなどスマホと連動した車外とのコミュニケーションまでも、タッチスクリーンやタッチパネルの操作でまかなわれる。その際に右ハンドル車の運転手は、センターコンソールに近いほうの左手で微細な操作が求められるだろう。変速機のシフト操作ぐらいしか左手の仕事がなかった昔に比べて、運転以外の左手の仕事はこれから確実に増えていく。このままだと、多くの右利きドライバーが、右ハンドル車の運転に違和感を覚える状態になりかねない。 ただ、この懸念を杞憂(きゆう)に終わらせる可能性があるのが、電気自動車(EV)だ。パワートレーンが、比較的コンパクトで配置が自由な、バッテリーとモーターで完結するからだ。居住空間を横切るトランスミッションとドライブシャフト、それを覆うコンソールボックスという室内レイアウトの既成概念にとらわれない、住宅のリビングのようなインテリアがEV化によって実現すれば、ユニバーサルデザインの運転席も夢物語ではない。室内スペースに余裕があるSUVでこそ、国内外の各メーカーには、そんな未来のクルマ作りに果敢に挑んでほしい。(北林慎也) |
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