長編小説「いのち」について語る瀬戸内寂聴さん=11月29日午前、京都市右京区、槌谷綾二撮影
作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(95)が、長編小説「いのち」(講談社)を出した。親交のあった女性作家2人の思い出を中心に、自らの老いに向き合いながら命を見つめた。寂聴さんの長編は3年前の「死に支度」以来。「体力的に、この本が最後の長編小説になるかもしれない」と話す。
寂聴さんは「女子大生・曲愛玲(チュイアイリン)」で1956年の新潮社同人雑誌賞を受賞。「夏の終(おわ)り」や「美は乱調にあり」などで女性の強さや恋を描き、これまでに出した作品は400冊以上。2014年に圧迫骨折や胆囊(たんのう)がんの手術を受け、復帰後は主に短編やエッセーを書いている。
「いのち」は月刊誌「群像」に、休載をはさみながら昨年4月号~今年7月号に掲載された。長い入院生活を終えたときの主人公の心境から始まる自伝的小説だ。登場する女性作家2人は「一番仲良く付き合った」という大庭(おおば)みな子(1930~2007)と河野多恵子(1926~2015)。先月29日に京都・寂庵(じゃくあん)で会見した寂聴さんは「2人は日本文学史に必ず残る。何でも書いておくことが後の研究に役に立つと思った」。本のタイトルについては「小説を書くことが私のいのちですから」と語った。
今後も短編やエッセーは書き続けるという。「今度生まれても小説家になりたい。男よりも女がいい。女のほうが男の何倍も深い一生を送れるんじゃないかな」
「いのち」は四六判256ページ、税別1400円。1日刊行。全国書店には4日ごろに並ぶ予定。(岡田匠)