インタビューに答えるガンナーム・ガンナームさん=東京都豊島区の東京芸術劇場
過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下で横行している「結婚ジハード」の一端を描いた舞台「朝のライラック(ダーイシュ時代の死について)」が16、17の両日、東京芸術劇場(東京都豊島区)で上演される。ISとの戦闘が続くイラクとシリアで公演しようとした演出家がいたが、検閲で通らなかったといい、世界初演となる。
国際演劇協会日本センターが企画制作する「紛争地域から生まれた演劇」シリーズの一環。結婚ジハードは、女性が無理やりISの戦闘員と結婚させられたり、性の相手をさせられたりすることなどをいう。
舞台はダーイシュ(ISのアラビア語蔑称)の支配下にある架空の村。ある夫婦を長老が訪ね、夫に離婚か処刑されるか選ぶよう命じる。ダーイシュの軍司令官が、夫の美しい妻を所望しているからだ。果たして夫婦の運命は――。
アラブ首長国連邦在住のパレスチナ人劇作家ガンナーム・ガンナームさん(62)が、結婚ジハードで結婚式の衣装を着たまま服毒心中したシリアの夫婦のニュースに衝撃を受け、2016年に創作した。
「結婚ジハードは、宗教というよそおいであしき行為を隠し、過去に退行させる。作品では恋愛関係、社会的なつながりの破壊など、複数の社会的な側面も描いた。日本での上演が戦渦に暮らす人々の精神を知る新しい扉になるのでは」
翻訳家の渡辺真帆さんが初訳、日本人俳優が戯曲を読む形式のリーディング上演になる。夫役の竪山隼太さん(27)は「理不尽極まりない。教科書から一歩踏み込んだ世界を知って」、妻役の占部房子さんは「権力に立ち向かう究極の夫婦愛の物語」、演出の眞鍋卓嗣さん(42)は「人間の心の悪や弱さを掘り下げたい」と話す。(山根由起子)