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「文学もノーベル賞も分断を越える」カズオ・イシグロ氏

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ストックホルムで10日、ノーベル文学賞を受賞後、妻ローナさん(左)、娘のナオミさん(右)とともに撮影に応じるカズオ・イシグロさん=時事


スウェーデンのストックホルムでは10日、ノーベル賞の授賞式が開かれ、平和賞を除く物理学賞、化学賞、医学生理学賞、文学賞、経済学賞の11人の受賞者に、カール16世グスタフ・スウェーデン国王からメダルと賞状が贈られた。あいさつにたったノーベル財団のカールヘンリック・ヘルディン会長は、「ポスト・トゥルース」の時代にあって、若い世代が異なる意見を尊重し議論する大切さを学ぶよう、教育と教育者の重要性を訴えた。


スウェーデン・アカデミーのサラ・ダニウス事務局長が、作家カズオ・イシグロさん(63)が受賞した文学賞について講評。「記憶と忘却」が重要なテーマであるイシグロ作品について、「物語を、まるで(水中深く潜ることを可能にする)潜水鐘(しょう)を使って水中を旅するように、記憶喪失という巨大な海の中で何かを拾い上げてきた」と表現。「私たちが過去とどう向き合っているのか、そして、個人でも共同体や社会としても『生き残るための忘却』とどう付き合っているのか、子細に探検を続けている」と評価した。


授賞式の後に開かれた晩餐(ばんさん)会で、イシグロさんは、5歳の時、母(91)から「ノーベルショウは、ヘイワを広めるためにつくられた」と聞いたと日本語を交えてあいさつ。「ノーベル賞は子供でも理解できるようなとてもシンプルなものです。そしておそらく、だからこそ、世界に影響を与え続けているのでしょう」と語った。


イシグロさんは1954年長崎生まれの日系英国人。原爆投下から14年後に知った「ノーベルショウ」は「母が幼い子供に聞かせる物語であり、子供たちに希望を与える」とし、現在、敵対しあい不信感が募る世界で、「文学という分野がそうであるように、ノーベル賞は、互いを分断する壁を越え、人類として共に何に立ち向かっていくべきなのかを思い出させてくれる」と話した。1千人の聴衆が穏やかな語りに耳を傾け、温かい拍手で会場を包んだ。(ストックホルム=編集委員・吉村千彰)



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