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福島の漁場引き継ぐため 戦い続けた漁協組合長の遺志

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水揚げ時に、父親の弟で現在の船長でもある佐藤幸司さんからアドバイスを受ける泰弘さん(左)=2月22日、福島県相馬市、福留庸友撮影


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漁を終えた船が港に帰ってくる。漁師の妻たちが一斉に船に近づき、水揚げした魚を手早くカゴに取り分ける。ヒラメ、ナメタガレイ、アンコウ、タラ……。仲買人たちが集まり、入札が始まる。


特集:東日本大震災


2月下旬、福島県相馬市の松川浦漁港。「あんにゃ(兄)が望んだ雰囲気が戻ってきたな」。沖合底びき船「宝精丸(ほうせいまる)」(32トン)の船長、佐藤幸司さん(59)が表情を緩めた。30年以上この船に乗る幸司さんが船長になったのは東日本大震災の後。それまで船長を務めていたのは、兄の弘行さん。海底や漁場を知り尽くす名人だった。


底びき漁は、水深50~550メートルの海底に網を下ろし、船で引いて魚をとる。海底の地形は山あり谷あり起伏に富む。


弘行さんはなだらかな海底ではなく、魚が集まる岩礁に網を下ろした。魚は入るが網はぼろぼろ。網を直しながら、漁を繰り返した。仮眠も食事もままならない2泊3日。天候が荒れても海に残り、大しけに見舞われたことも数度。「おっかねえ」。船を去る船員が出ても、弘行さんは方針を変えなかった。「海で寝てる船は漁はできねえ」



震災の日。自宅が揺れ、家財が散乱した。「海見てくっから。片付け頼む」。弘行さんは妻のけい子さん(当時51)を残して港へ向かった。間もなく津波で家は流され、けい子さんは遺体で見つかった。


そして原発事故。汚染水が海に流れ込み、漁は全面自粛となった。


再開は事故から1年3カ月後の2012年6月。安全が確認された魚だけを取り、市場に流通させる試験操業が始まった。ミズダコなど3種のみだったが、待ちに待った漁の再開――。世間にはそう映ったニュースも、実態は違っていた。


福島の魚が売れるはずがない。あきらめが広がっていた。東京電力の賠償金で生活も保障され、意欲を失う漁師が現れ始めていた。「漁なんて時期尚早」という声に、「漁師は海へ出ねばだめだ。賠償で生活はできても復興はできねえ」。弘行さんは訴えた。激しい議論の末、実現した漁だった。


13年6月、820人を束ねる相馬双葉漁協の組合長に就任した。船長を幸司さんに任せ、宝精丸を下りた。汚染水対策をどうするか。漁場をどう広げるか。「若い漁師が力をつけられるよう水揚げを増やしたい」。口癖のように語った。


組合長の任期が終わりに近づいた一昨年春、大腸がんが発覚した。手術の前、息子と弟夫婦を自宅に集めた。「退院したら2期目も続けたい。協力してくれ」。家族は反対したが、意志は固かった。「今投げ出すわけにいかねえ。命を落としても本望だ」


しかし2期目途中の昨年4月、…



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