明徳義塾―日本航空石川 一回表明徳義塾1死、田中は右前にチーム初安打を放つ=遠藤真梨撮影
第90回記念選抜高校野球大会第8日の30日、昨秋の明治神宮大会を制した今大会注目チームの一つでもある明徳義塾(高知)がベスト8をかけて戦った。
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1点リードの九回裏無死一、二塁、日本航空石川の打球が三塁手田中闘(とうわ)君(3年)のはるか頭上を越えていった。「頭が真っ白になった」。打球は左翼席へ吸い込まれ、逆転サヨナラ負け。突然の幕切れに敗退の実感すらわかなかった。
田中君は奈良県天理市出身。親元を離れて明徳義塾に進んだ。心の支えにしてきたものがある。入寮する時に姉の空良(そら)さん(18)が荷物に忍ばせた手紙だ。恋愛話もするほど仲が良いきょうだい。「泣いてしまいそうだから」と田中君を見送ることができなかった姉は、代わりに手提げカバンにこっそり手紙を入れた。
「練習は苦しいことたくさんあると思うけど、乗り越えたらこれからの人生でそれ以上に苦しいことないから、頑張りや」
明徳義塾は春は3年連続18回目の出場。強豪での活躍を目指し、全国各地から選手が集う。田中君は入学後、つらいことがあると何度もこの手紙を読み返した。慣れない寮生活は周りに気を使うし、練習中には涙ぐんでしまうこともある「泣き虫」だ。昨春の選抜大会はプレーしたが、昨夏はベンチ外。「もう見放された」とベッドの中で泣いた。でも手紙を読んで涙を流し終えると、「みんなに支えられているんだ。また頑張ろう」と気持ちを切り替えられた。「あの手紙があったから野球を続けてこられた」という。
新チームでは、毎晩の自主練習の時間を2時間に増やした。下半身を意識して鍛え、練習中の声出しやグラウンドの準備なども率先して行った。初戦の中央学院(千葉)戦では九回2死から安打を放ち、チームの逆転サヨナラ勝ちにつなげた。この日は一回にチーム初安打を放ったが、八回の好機に凡退。あそこで打って追加点をとれていれば――。悔いが残る結果になった。この借りは、夏にかえすつもりだ。(菅沢百恵、阿部健祐)