練習を見守る総監督のウェイン・スミス氏(中央)=神戸市の神戸製鋼灘浜グラウンド
ラグビー・トップリーグで2003~04年の初シーズン以来、優勝から遠ざかる神戸製鋼の総監督にニュージーランド人のウェイン・スミス氏(60)が就いた。ニュージーランド代表(オールブラックス)アシスタントコーチとして11、15年のワールドカップ(W杯)連覇に貢献した名参謀は、昨季5位のチームが浮上するカギを「15人全員が球に関わるエキサイティングなラグビー」と語る。
独自のチーム作り
南半球最高峰リーグのスーパーラグビーでも、クルセーダーズのヘッドコーチ(HC)として1998、99年を連覇。さらにチーフスのアシスタントコーチとして12、13年の2季連続優勝した。9日にあった神戸製鋼のチーム初練習では先頭に立ち、独自色を見せた。
パス練習では体勢を崩されても片手で球を放る動きを指導した。またパスした後、球を持った選手の背後を回り込みながらサポートし続ける練習も反復した。いずれも球をつなぎ続ける「継続ラグビー」への意識付けだ。
スミス氏はこの戦術について「ディフェンスのコーチングをしなくていい」と冗談めかしたが、真意はこうだ。一度倒されてしまえば球を手放さなければならないのがラグビー。ならばタックルされた後のボール争奪戦で苦しむより、体勢を崩されながらもサポートした味方に球を託し続けたほうが速さを生かせる。ピンチも減らせる。
さらにもう一つの特徴が「共同キャプテン制度」だ。今季からフランカー前川鐘平に加え、元オールブラックスのSHアンドリュー・エリスも主将に指名した。1人に判断を任せるのでなく「リーダーシップをシェアしていきたい。全員がリーダーであるチームを作りたい」という考えからだ。局面のプレーでは個人が責任を負うしかない。2人の主将さえも重要な仕事は「試合前のコイントス」と割り切る。
平尾誠二さんと縁も
戦術やチームのあり方も合わせて「神戸製鋼が日本において果たす役割は『変革』」と語る。自由に球を動かし、それぞれが判断力を伴った強い個であること。くしくも神戸製鋼を選手、指導者として引っ張った故平尾誠二さんの考えとも合致する。
実は、スミス氏と平尾さんは縁がある。91年、当時関西社会人リーグのワールド(休部)でスミス氏が5週間ほど指導したとき、平尾さんを中心とする神戸製鋼が88年シーズンから日本選手権を7連覇しているさなかだった。
「ニュージーランドに帰っても、素晴らしい選手が日本にいたと周りに伝えた」。その後も親交が続いていたという。一昨年に平尾さんがなくなり、神戸製鋼が大黒柱を欠いたことを知り、「力になりたい」と思ったことも就任理由の一つだったという。
家族との時間を大事にするため、今季の日本滞在は15週間ほど。まずは5月上旬まで神戸に滞在し、チーム哲学を植え付ける。あとは自ら勧誘した同じくニュージーランド人のデーブ・ディロンHC(42)に細かな指導を任せる予定だ。(有田憲一)