演技指導する八名信夫さん(中央)。悪役商会の舞台演出もずっと手がけてきた=6日、熊本市中央区
14日に前震発生から2年を迎える熊本地震。俳優集団・悪役商会を率いる八名(やな)信夫さん(82)が私財を投じ、被災地を舞台に映画「駄菓子屋小春(こはる)」を撮影中だ。制作費が復興の一助になるよう地元の俳優やスタッフを集め、ロケも大半を現地で敢行した。今秋の完成後は各地で無料上映し、災害を乗り越えて生きる女性らの姿を全国へ届ける。
物語は地震の翌年、熊本城近くの寂れた商店街で駄菓子屋を営む小春と店に集う子らを軸に展開する。3月末から撮影を始めたら、遠巻きに見守る子たちがいる。オーディションの落選組だった。ふびんに思った監督・脚本・主演の八名さんが声をかけた。「画面に映るように表に座って漫画か何か読んでいなさい」。
制作スタッフの取りまとめ役・山川正紀さん(53)は「優しい人」と評する。この仕事は半ばボランティア、本業は熊本放送社員だ。八名さんのラジオ番組を担当して以来、25年近い付き合いになる。
8年半続いた番組を通じ熊本に八名さんのファンが増え、3人が一昨年、東日本大震災の被災地支援のため八名さんが撮る映画の富山ロケに参加した。熊本地震が襲ったのは撮影を終えた3人が帰った3日後だ。
「ロケは楽しかったねと言っては励まし合っています」。1カ月後、こんなメールを添えて阿蘇の名水が届き、八名さんは「力になりたい」と映画制作を思い立つ。被災地を回り、パンを売る自転車の青年と出会った。工場も自宅も潰れたという。「でも自転車が頑張れと言ってくれる」。こうした心に響く言葉を織り込んで脚本を練った。「悩みを抱えながらも笑顔で逆境に立ち向かう姿を全国の方々に知ってもらえたら、と思いました」
撮影は4月中に終え、熊本で編集して9月末の完成をめざす。上映会場の公民館などで作品のDVD購入を呼びかけ、収益を次の支援活動に充てる考えだ。(田中啓介)