8日のアスレチックス戦で好投した大谷=USAトゥデー・ロイター
大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が、17日のレッドソックス戦に先発する。自身開幕2連勝を果たし、すでに先発陣の軸と化したが、世界最高峰のリーグで100マイル(約161キロ)は、もはや珍しくはない。日本最速165キロを誇る大谷は、特別な存在として定着できるのか。
パワー追求、増える未成熟
開幕から2戦負けなしの大谷。初登板初勝利だった1日(日本時間2日)の“投手デビュー戦”で、いきなり最速100マイル(約161キロ)をたたき出した。大リーグでもトップクラスの球速で、豪速球投手を形容する「火の玉投手(Flame―thrower)」の、仲間入りを果たした。
大リーグ専門チャンネル「MLBネットワーク」が導入する解析システム「スタットキャスト」によると昨季のレギュラーシーズンで、100マイル以上を1球でも記録した投手は40人いた。31人だった2016年に続き、2年連続での30人超え。
40人のうち球数の最多は、「世界最速」105・1マイル(約169キロ)を誇るヤンキース・チャプマン。キューバ出身左腕は、昨季投球数の約39%にあたる345球を投げた。2番目はレッドソックスのケリーで約14%の150球だった。
救援投手が大半を占めるなか、先発投手は6人いた。トップは全体の10番目につけたヤンキースの24歳セベリーノ。昨季14勝した右腕で今季の開幕投手だ。100マイル以上は3082球中23球で0・75%と割合は低いが、「ここぞ」という場面でギアを上げる。
大谷の速球、素直な軌道
パドレスのグリーン監督は「近年の野球は、パワー主体に変わってきた。球速(アップ)はその影響」と話す。リーグ全体の平均球速は昨季は約150キロ。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、02年は143キロほどだった。マイナーでも100マイル投手は増えた。今季ホワイトソックス傘下3A所属のコペックは、過去にマイナーで105マイル(約169キロ)を記録している。
とはいえ、現在は100マイルでも打ち取れる保証はない。コースが甘ければ打たれるのは一緒だ。昨季、100マイル以上から安打は45本生まれ、長打は19本、本塁打は6本あった。
マイナス要素も出ている。若手のなかには、球速ばかりを追求する選手も増えたという。投球フォームが固まっていない、変化球の精度が低いなど、「未成熟」な面が目立つ。レッズのプライス監督も「投球術を身につけないまま、昇格する選手が最近は多くなった」と危惧する。実際、昨季100マイルを投げた40人中17人が防御率4点台以上。全員が20代で、27歳以下は14人だった。
日本で実績を積んだ大谷は、洗練された変化球や経験もある。一方で大リーグのスカウトや関係者の間で懸念されているのが、速球の軌道だ。大谷の速球は、いわゆるきれいな回転をする「フォーシーム」が基本。手元で変化するツーシームより素直な軌道で、打者は予測しやすい。コースが甘ければ、バットに当てられる確率も高くなる。
他球団の徹底マークに加え、今後は長時間移動や時差など、疲労の蓄積も激しくなる。100マイルの速球を軸に、いかに投球の幅を広げられるか。大谷の今後の対応力が試される。(遠田寛生)