27日、板門店で握手を交わす北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領=ロイター
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長は27日午前9時半、北朝鮮の指導者として初めて、南北の軍事境界線を越えて韓国を訪れた。待ち受けた韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と笑顔で握手を交わした後、両首脳は板門店の韓国側の施設「平和の家」で首脳会談に臨む。同日夕に発表が予定される合意文などで、正恩氏が「完全な非核化」に向けた意思を明確にするかどうかが焦点となる。
南北首脳による会談は、2000年に金大中(キムデジュン)元大統領が、07年に盧武鉉(ノムヒョン)元大統領が、それぞれ北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記と平壌で会談したのに続いて3回目。韓国での開催は初めてだ。
板門店は、約3年続いた朝鮮戦争の休戦協定が1953年に結ばれた場所。正恩氏は、軍事停戦委員会会議場の間の通路を通り、南北分断の象徴である軍事境界線を示す高さ5センチ、幅50センチのコンクリート製のラインを歩いて越え、韓国側に入った。その後、文氏も正恩氏と手をつないで一緒にラインを逆に越え、北朝鮮側に入り、両国の融和を印象付けた。境界線で出迎えた文氏と記念撮影した後、韓国軍の儀仗(ぎじょう)隊の歓迎を受けた。
正恩氏は芳名録に「新しい歴史はいまから 平和の時代、歴史の出発点にて」と記帳した。徒歩で移動する間、文氏と正恩氏は言葉を親しげに交わし続けた。
南北首脳会談は午前10時15分過ぎから、「平和の家」で始まった。文氏は会談で、①朝鮮半島の非核化②恒久的な平和の定着③南北関係の進展を主な議題とする考えだ。
非核化をめぐっては、北朝鮮はこれまで米国のみを交渉相手とみなしてきた。その米国は、北朝鮮の「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」を短期間で行うよう求めている。一方で北朝鮮は、米韓軍の脅威がなくなればという前提付きで、時間をかけて段階的に廃棄していく構えだ。
一方、過去2回の南北会談で中心だった具体的な経済協力の合意は、今回は見送られる見込み。核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射をめぐって国連安全保障理事会が北朝鮮に厳しい制裁を科すなか、大規模な経済支援は現時点では難しいためだ。文氏は、安倍晋三首相の求めに応じて、南北会談で日本人拉致問題を正恩氏に対して伝える考えも示している。
会談は昼食を挟んで夕方まで続き、合意文書である「板門店宣言」(仮称)に署名する見通し。夜には両首脳が参加して、夕食会が開かれる予定。
正恩氏には妹の金与正(キムヨジョン)氏、金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長をはじめ、李明秀(リミョンス)総参謀長や朴永植(パクヨンシク)人民武力相(国防相)ら軍の責任者も同行している。(高陽〈韓国北西部〉=武田肇)