箱入りの水切りトマトを抱える大庭始さん=北九州市若松区有毛
北九州市若松区の農協直売所で、連日のように行列ができている。特産の「水切りトマト」を買い求める人たちだ。強い甘みに酸味がきいた味に加え、市外で買い求めにくいプレミア感が人気に拍車を掛けているようだ。
同区払川にある農協直売所「かっぱの里若松店」。21日の土曜、開店の午前9時半になると約50人が行列をつくっていた。
多くの人のお目当ては、若松特産の水切りトマト。入り口のドアが開くと売り場に人だかりができた。3200円の箱入りは贈答用にも需要があり、7箱があっという間になくなった。
福岡市東区から来た会社員の男性(60)は午前8時半から並び、箱一つと袋詰めを24袋抱えてレジに向かった。3月にキャベツを買いに来たのがきっかけで、水切りトマトの味を知った。それ以来、「もう他のトマトは食べられない」と毎週末、訪れている。別の客は「これまでのトマトの概念を覆す味」と絶賛した。
同店によると水切りトマトの行列は5年前から目立つようになった。近年、旬の3~5月は平日、週末を問わず行列に。多い日は百人に上り、整理券を出すこともある。
水切りトマトは、与える水の量を制限して栽培し、「濃縮トマト」とも呼ばれる。通常は5~6度の糖度が9度以上ある。玉は小ぶりだが、皮が厚く食感もいい。約30年前から若松で栽培が始まった。値段は通常のトマトの2~3倍にも上るが、市外、県外にも根強いファンがいる。
JA北九によると、若松区の生産者は十数軒。水の加減など栽培が難しく、専用の施設が要るため、地域の収量は通常のトマトの半分以下で、新規の生産者も増えにくい。市外の市場に出荷される量はわずかで、市内で確実に買える場所も農協の直売所に限られる。生産者の一人、大庭始さん(67)は「もっと多くの人に食べてもらえるよう、若い人に栽培を始めてほしい」と話す。(奥村智司)