マグサメン元米国防次官補代行=ワシントン、ランハム裕子撮影
ケリー・マグサメン元米国防次官補代行
私は、米朝首脳会談が開かれるにあたり、二つのことを心配している。
一つは、トランプ氏の(完全な非核化を求める)会談への期待感があまりにも高く、その結果、首脳会談の結果を「失敗」と受け止めてしまうことだ。トランプ氏はテーブルをひっくり返し、「もう交渉は終わりだ。オレは疲れた」と言い放ち、すぐに北朝鮮の核施設などに対する先制攻撃の準備へとまた軸足を移すだろう。これは最悪の結果だ。
私は今年1月末の上院軍事委員会の公聴会でも証言したが、予防戦争は周辺地域のみならず、世界中に破滅的な結果をもたらすだろう。
もう一つの懸念は、逆にトランプ氏が北朝鮮との非核化協議の中身に深入りしてしまうことだ。トランプ氏はこの問題の複雑さと困難さを理解しておらず、首脳会談に向けて十分な準備ができていない。トランプ氏が同盟国にとって不利な内容についても簡単に合意してしまう恐れがある。
もちろん今回の首脳会談のようにいかなるときも外交の機会をもつことは良いことだ。しかし、私の懸念は、だれが外交を担っているのか、という点だ。
トランプ氏は過去の大統領とは全く異なる人物。ボルトン大統領補佐官とポンペオ国務長官というタカ派を外交・安全保障の柱に据え、対外的には常軌を逸したメッセージを出し、常に極端から極端へと振れ続けている。その意味では、今回の会談は一か八かの会談であり、「ハイリスク・ハイリターン」の会談でもあるだろう。
トランプ政権にとって首脳会談前の局面で最も重要なことは、長期的な外交戦略を立てることだ。米国は日韓の同盟国と連携して外交戦略を練ったうえで、北朝鮮との二国間交渉に臨まなければいけない。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の主な狙いの一つは米国とその同盟国を分断することだからだ。
一方、米国は外交と同時に、北朝鮮の核の脅威に対抗し、韓国と日本に対して核を含む拡大抑止の能力を高める必要がある。北朝鮮に対し長期的な封じ込め政策も強化するべきだろう。
私は現在の北朝鮮問題をめぐる議論が「外交か、それとも戦争か」という二つの点が強調されすぎていると思う。しかし、実際にはこの二つの極端なテーマの間には、我々が様々な政策を選択する余地が広く残されているのだ。(ワシントン=園田耕司)
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オバマ米政権下の2014~17年、米国防次官補代行(アジア太平洋担当)として北朝鮮の核ミサイル問題に対応。現在はアメリカ進歩センター(CAP)副所長。