帰路につく観客とハイタッチするサンウルブズのボランティアスタッフたち
世界最高峰リーグ「スーパーラグビー」に参戦3年目のサンウルブズは、試合運営にボランティアが深く関与している。座席案内、特典の配布、ベビーカーの預かり、グッズ販売、入場者調査――。多岐にわたる活動を重ね、2019年のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会に備えている。
5月12日、ホームの東京・秩父宮ラグビー場。今季の国内最終戦は、サンウルブズが豪州のレッズを破り10戦目にして初白星を挙げた。帰路につく約1万2千人の観客を、出口に花道を作ったボランティアがハイタッチで出迎える。「おめでとうございます!」。観客も笑顔で手を合わせた。
「会場の盛り上げ役」を自認
サンウルブズのボランティアは観客との交流を大事にする。自分たちを「会場の盛り上げ役」と位置づけ、得点時には観客とダンスも踊る。「恥ずかしがらないで下さい。僕らもエンターテインメントの一部ですから」。指導役のスタッフが朝礼でそう促した。
この日のボランティアは約200人。午前8時からNECの顔認証システムで受け付けし、夕方まで様々な活動に携わった。参入1年目から登録している会社員の松下直子さん(51)は自動翻訳機を手に道案内役に従事。「ここのボランティアは一体感があって楽しい」。きっかけは会社の募集。それまでは観戦する側だったが、裏方の魅力に気付き、ボランティアリーダーの資格も取得した。
組織作りは、15年のW杯イングランド大会を参考にした。清潔な服装や髪形で臨む、活動中にSNSで発信しない、活動中の飲酒は厳禁。こういった行動指針を定め、ディズニーランドの運営方法も一部採り入れた。システムを構築したIT会社社長の眞柄泰利さん(59)は「無償だから『やってやるんだ』という態度では困る。明確な指針を作ったことで、参加者の意識も高まった」。主催者と運営の課題を共有し、車いす観戦者の動線を改善するなどの成果も出た。
人集めの要点は個人参加を認めず、団体単位で申し込む形を取ったことだ。地域のラグビー協会や企業に頼み、運営に関わりたい人を募った。大半は社会人や主婦。眞柄さんは「企業や協会がある程度管理してくれるから、団体募集の方がやる側も受け入れる側も安心感がある」と語る。
選手からも感謝の声
ボランティアにはTシャツやタオル、飲み物や弁当は提供されるが、交通費などの支給はない。試合観戦もできない。会社員の竹村昭浩さん(54)は「会社とは全然違う人たちと一丸となれる。ストレス解消になるし、人脈作りにも役立つ」と利点を挙げる。この日の試合後には、サンウルブズの流大(ながれゆたか)主将らが会場内で行われたボランティアの集いに駆けつけ、「グラウンド外の皆さんの支えがあって勝つことができました」とお礼を述べた。
来年のW杯に向けて大会組織委員会は、12開催都市で1万人以上のボランティアを集める予定だ。7月18日までサイト上で募集している。組織委はこの3季の経験を重視し、今後のラグビー界を支える人材を残す観点から、サンウルブズのボランティアをW杯で選ぶ方針という。(野村周平)